第2話カフェ巡り
タニヤマ:「俺カフェ巡りとかやろうと思っててん。」
ソトナカ:「お前みたいなやつが?」
タ:「光の速さでファイティングポーズとるやん。戦闘民族か?」
ソ:「ちゃうねん。カフェ巡りって字面を聞いたら虫酸が走んねん。あんなん周りとはひと味違う自分を演出したがるくせに、結局は気軽に買えるエモさに走ってる空っぽの人間がやることやん。」
タ:「カフェに親殺されたレベルの勢いやん。」
ソ:「女子ウケ狙ってんのが透けて見えるのも嫌やし、そもそもコーヒーなんて苦い汁程度の知見しかない人間がやる趣味とちゃうねん。」
タ:「カフェ巡りディスると見せかけて、よくよく聞けば俺のことディスってるやん。」
ソ:「どうせサークルかバイトの女にええかっこしたくて始めるつもりなんやろ。周りに流されんな。確固たる自分の意思をもって生きろ。」
タ:「うるさいな。てかそんなに人のこと説教してるお前はどんな趣味もってんねん。」
ソ:「まあ、強いて言うならキャニオニングかな。」
タ:「なにその強そうな字面。何をする行為かもわからん。」
ソ:「簡単に言うと滝とか渓谷を滑ったりするアウトドアや。」
タ:「物理的に流されとるやんけ。小難しい言い方しよって。なんやったんやさっきの説教。」
ソ:「いや流されるだけじゃないから。滝登ったりもするから。自然の中で自分を解放する遊びやから。」
タ:「想定よりも面白そうやんか。もうカフェ巡りよりそっちに気が向いとるわ。」
ソ:「てか、そもそもカフェぐらい行ってから報告しろや。ビビっとんのか?」
タ:「べべべ別にビビッてへんわ!ちょっとベローチェとドトールのどっちに行くか迷ってただけやねん。」
ソ:「めちゃくちゃビビっとるやないか。敷居も金銭面も初心者に優しいチェーン店から攻めようとしとるやん。」
タ:「いやでも近所にその2件しかないし…。」
ソ:「駅前まで行けば個人店もあるやろ。最低でもスタバ行ってこい。」
タ:「わかったよ。行けばいいんやろ、行けば。」
―――
タ:「ただいま…。」
ソ:「おかえり、どうやった?初めてのカフェは?」
タ:「もうあかんわ。心が折れてもうた。」
ソ:「コーヒー飲んだだけでなんで心が折れるねん。注文でも間違えたか?」
タ:「間違えるどころの話じゃないねん。エスプレッソだのアメリカンだのウインナーだの、初見殺し過ぎるやろ。」
ソ:「まあ、最初はそうなるよな。」
タ:「あと食券制じゃなかったし。」
ソ:「いや普通カフェは食券じゃないやろ。そこからかい。」
タ:「俺店員と話すタイプの店むりやねん。テンパって女の店員にフェラペチーノくださいって言ってしもうたわ。」
ソ:「考え得る限り最悪の間違え方やんけ。」
タ:「その後、めっちゃ笑われながらフラペチーノもらって、席に着くやん。せっかくやし本でも読もう思って、イヤホン着けたんやけど、上手くペアリングできてなくて、店中に俺の聞いてた音楽流れてもうてん。」
ソ:「何聞いてたん?」
タ:「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」
ソ:「またしても最悪を引いとるやんけ。なんでおしゃれなカフェでその選曲やねん。」
タ:「いや、でも一番最悪だったのはお会計の時よ。PayPayで払ったんやけど、なぜか支払いの音声が男の絶叫になってて。店員もドン引きしてて、もう笑ってすらくれんかったわ。」
ソ:「ああ、それは俺がこの前変更したやつやわ。」
タ:「お前がやったんかい!」
ソ:「つい出来心で。」
タ:「あーもうあのカフェ一生行けんわ。もうカフェ巡りする気もなくなった。」
ソ:「おつかれぇ~い。」
タ:「もうこれからは、本当に自分がやりたいことを模索して生きていこうと思うわ。」
ソ:「ええやん。」
タ:「それでさ、今度シーシャバー行ってみん?」
ソ:「いっぺんどついたろかお前。」