短大が減っていくのかあ(A新聞朝刊見出し、より)
戦後のどさくさに紛れて相川は、
「いつも、テレビで拝見しています。ファンです」
そう、加賀アナウンサーに図々しく自分を売り込んだ。
「恐れ入ります。見てくださっているんですね、真っ昼間の番組を」
いけねぇ。午後一の情報番組のMCを昨年4月から担当しているのだが、普通の勤め人はおおよそ視聴できるはずもない。それなのに、内容を知っているのである。職場のパソコンでオンデマンド視聴しているのがバレバレじゃないか。
「いや、その前に、ちょくちょく出てらっしゃいましたよね、ニュース番組で。そっちをよく、見てました」
たしかに、応援なのか、代打のピンチヒッターでここ数年、ニュース原稿を読んでいたのは事実だったのだ。おのれのかあちゃんだけでは満足せず、暇にかまけた助平なおやじどもが加賀アナに注目したというのは容易に想像できる。
「ホームページも拝見したんですけど、山登りを趣味とされているとか」
すると、思わず、口元を手で隠しつつも、大きく口を開け、けらけらと笑うテレビウーマン。
「まあ、弊社の紹介ページまでご覧いただいているんですか。ありがとうございます」
日がな一日、不毛な販売促進会議の、不要な参考資料を作成するしか仕事のない役職定年男は、御成門テレビのサイトをそれこそ一日中、何度もチェックしていた。だから、お堅いと称されるテレビ局のなかでも、めずらしくインスタグラムを活用している彼女だったから、そっちもフォローしている熱の入れよう。『趣味:ハイキング』の文言に、見事に喰いついたというわけ。これはきっとまだ独身で、男いないんだな、と汲んだのだ。まるで推し活。だけどこれって、見方を変えると、テレビ局総出の態のいい、頂き女子戦略?
「どのあたりの山に登られるんですか」
しっかり、探りを入れるんだから、ストーカーの気質あり、か。若干、危険な香りを感じ取ったのか、お目付け役らしき演出家・田部走が割って入り、
「まあ、いいじゃないですか、プライベートは。山もいろいろありますから」
そりゃそうだ。
「そ、そ、そうですよね。山もいろいろ。品川神社だって、山と言えば山ですし。急にあそこだけ国道部分から隆起してますから。さらに、その上にこんもりとした土盛りっていうか岩盛りがしてあって、江戸のころは富士講が行われたって話ですから。愛宕だってそうだ。真垣平九郎が馬で駆け上がったんだよ、なんて、初もうでに行くたんびに、講談好きの父親はまだ小さかった私に話して聞かせたものですし。芝公園だって、山って言えば山ですよ。東京タワーが建ってるところが頂点で、隣にはもともと増上寺の子弟が通ったという学校もあるし。なにも、高尾山や富士山ばかりが山登りじゃありませんから。池上線の御嶽山だって、大井町線の大岡山だって、五反田の池田山、島津山、花房山、御殿山、八ツ山だってありますからね」
魂胆見透かされたのが腹立たしくも恥ずかしくもなさけなくもといろんな感情が入り混じってやけのやんぱち状態でおつむが狂ってしまったのだろう。これでも食らえと、うさばらしのつぶてを四方八方なげつけてやった。