どうも、毎日、雨が続くなあ。しかも、寒いし・・
さすがに、隣の席でサラリーマンのおっさん2人組がテレビ局の悪口をがなり立てたものだから、加賀アナウンサーたちもおちおち食事に集中できない。きっと、自分に対して、あてこすっているんだろうと察して、さすがの御成門テレビを代表するアナウンサー、割り箸を置いた。割り箸を置いて、ティッシュで口を拭い、上半身を左半身にして、
「あの、お言葉しかと、お伺いいたしました。まことに申し訳ありません。フジテレビの問題も含め、わが社も同業として、ご批判、真摯に受け止めさせていただきます」
これには、逆に、店中の客が息を呑んだ。各自、社会人としてのマナーをわきまえ、知らないふりを装っていたのだが、その実、もちろん、しっかり聞き耳を立て、様子をうかがっていたのがわかる。それまでの喧騒がまるでうそのように、クラシックの演奏会場と化した。少しピリッと山椒の効いた静寂に包まれたのだ。
これには、さすがに、相川も、己の軽挙を恥じざるをえなかった。いくら、好きな大人女子と相席したからったって、やっていいこと、いっていいこと、しちゃいけないこと、くらいの分別はあってしかるべきだと。相川は、キキキーッと木製の椅子をセメンの床にこすりつけつつも、体全体を右へ90度、面舵いっぱい、おっぱい。
「いえ、大変、失礼いたしました」と応じつつ、小芝居をやってのける。「あっ、ひょっとして、テレビでお見かけしたこと、ありませんか?」
ナンパとしては、あまり筋のいい方法ではない。やるなら、正面切って、いくべきなのであろう。
「え、ええ」
「ひょっとして、ドラマに出ていらっしゃる方ですか?」
「いえ、違います」
「おかしいなあ、どっかで、お見かけしたことがあるような気が」
もどかしくも、ばかばかしいやり取りを見せつけられて、さすがの池波部長もこりゃだめだ、と見切りをつけたのか、今度は自分から、
「あっ、先輩じゃないですか。覚えてらっしゃいますか、池波ですよ。軟式テニス部の」
真横の、ドラマ『日曜時代劇』の演出家・田部走に話しかけた。すると、
「おう、なんだ、池波か。奇遇だな。それにしても、ヘンなこと言うなよ、一週間前に会ったばかりじゃないか。同窓会の赤坂の料理屋で。だいじょぶか。少し疲れてんじゃないか」
2次会カラオケ、3次会は二人だけで、気分と河岸を替えて、五反田の『男性機能鍛錬道場』にしけこんだばかりだったのだから(くれぐれも、仕事中に、『~~道場』をググってはいけません)。
「あれっ、知り合いなの」
「ご存じの方なんですか」
「うん、そうなんだ、中高大の先輩なんだよ」
「そのとおり」
会話が交差した。