アナウンサーの寝取り方
「お父さんは、いったい、どこにいるんですか。おじいちゃんやおばあちゃんにいくら尋ねても、知らないの一点張り。どこにいるんですか。ねえ、お母さん。お父さんはいったいどこに」
だんだんと涙声になり、最後、ウッドテーブルに突っ伏し、たまらず慟哭の声を上げたうみひこ。傍から見ていても、気の毒なほどだった。それにしても、かの御成門テレビの看板アナウンサーが、まさか、青森の片田舎で、マンバギャルだったとは・・ほのかな憧れ、いや、それどころか、生々しいほどの欲棒を覚えた相川健二56歳戦力外通告男でさえ、あまりのイメージのギャップに、すでに心が離れ始めていた。
いかにせよ、マンバで思い出すのは、昭和50年代の小学校4年だったかなあ・・急に、回想に入った56歳おじさん。三田の慶応大学を会場にして、当時、飛ぶ鳥落す勢いだった中学受験のための塾「四谷大塚」の入塾試験で、「万葉集」の読み方が出たんだよなあ。オレ、その時、「万葉集」なんて言葉、初めて聞いたから面食らっちゃってさあ。家でも、父親も、母親も、そんな話一切しないし。父親は魚を取ってくる会社のサラリーマンだったし、母親は専業主婦で洋裁と料理が得意だったけど・・。とにかく、読み方がわかんないから、子供ながらに素直に、「まんばしゅう」って回答したんだよな。そしたら、見事、入塾試験に落ちたんだよ。だけど、試験結果が郵送されてきて、ひとしきりテストの話をして、愛する息子がこともあろうに日本の古典の名作を「まんばしゅう」と回答したことを知った時、さすがに、母は苦笑してたっけなあ。呆れて、こらえきれずに笑っていたのをかつての親の年以上になっても覚えているからなあ。三つ子の魂百までだよなあ。
マンバギャルと聞いて、万葉集を連想させるのは、日本広しといえども、品川区戸越銀座の、この、相川健二くらいのものだろう。まことにおめでたいやつである。長生きするぜ。
「うみひこのお父さんは、もういないの」
「うそだ」
「うそじゃない。私と同じ高校の同級生だったあなたのお父さんは、駅前のパチンコ屋に停めてあった他人のバイクを勝手に拝借して、結果、そのまま、海に飛び込んでしまったのよ」
「・・・なんてこった。じゃあ、亡骸は」
「上がらなかった。ちょうど、海が荒れていて。台風が直撃した時に、こともあろうに、あなたのお父さんは」
「・・なんで、そんなしけた日に、海なんか」
「バイクに乗ってみたかったんでしょ。若さよね。若さ、と、バカさ、よ」
草葉の陰で、相川健二56歳はつぶやいた。かのオザキを先取りしたってことか・・
「お葬式は村中ですませて。うみひこはおじいさんとおばあさんが引き取って。わたしは幸いに、高校を退学せず、休学して。出産後、再度復学して、卒業できたの」
「大学は? 一芸入試? 出産したってことで?」
「そんなので一芸なわけないじゃない。ちゃんと勉強して、東京の大学に入ったの」
大体の話は理解できた。詮索するほどのことでもなさそうだ、と話に飽きた相川は、公園を適当に散歩しては、帰宅の途へ着いた。
その夜、家族が寝静まった隙に、いそいそとパソコンを持ち込んで、懲りもせず、エロ動画の検索を開始しはじめた相川。例のコサツ動画を一手に引き受けている大手サイトFC3を覗いてみた。すると、先日鑑賞した「ランユリ・カップル」が。中年夫婦の、やけに長い、公武合体動画である。
あれっ、このカップル、性懲りもなく、また一本、追加してるのか。よくよく見てみると、一本どころではなかった。あれから、それほど日が経っていないはずなのに・・どういうわけなんだ。かなり前から撮りためておいたってことか。それとも、わずか数日の間に、5、6回分、アップしたってか。すごい体力だなあ。
心底、尊敬の念が湧いてきた。わずか、1週間くらいじゃなかったか。前に見たのは。それなのに、5,6回って・・生業だね、これは。これを本職にしなけりゃ、逆にまずいだろ。本業を抱えていて、それで同時並行でこの割合でコサツをアップしていたら、普通は、本業に支障をきたすよね。仕事場で船を漕ぐとか。周りだってわかるだろう。あの最近、どうも、様子がおかしいのよね、と。お疲れ気味なのかしら、と。どうみても50過ぎの、もう、長年連れ添ったという段階に差し掛かったおっさん夫婦が、毎晩のように励んでいるとは、世間はさすがに想像だにしないはずだ。新婚じゃないんだから。
最新らしき一本をクリックすると、男は同じボテ腹なのだが、女性が変わったようだ。すっきりした体形になっている。
あれっ、二人目のモデルか。事業を拡大し始めたってことか。