第9話 ドローン編隊(後半)
「進三郎……もうこれ以上、追ってこないで。」
進三郎は震える声で問いかけた。
「メル、何をしているんだ?これだけのドローンで、いったい何をしようとしているんだ?」
メルは静かに浮かび上がり、ドローンの群れを見渡した。そして、まるで人形がセリフを読み上げるように口を開いた。
「私はK国の工作員。目的は、このドローンで東京の首相官邸を攻撃すること。それが私の任務。」
進三郎とメグは言葉を失った。空に広がるドローンの群れが一斉に動き出し、整然とした隊列を組む。その規模の大きさに、二人は恐怖を覚えた。
「嘘だ……そんなの冗談だろ?」
進三郎は声を震わせながら否定する。
メルは進三郎をじっと見つめ、冷たく告げる。
「嘘じゃない。私はC国で作られ、K国の工作員として訓練を受けたの。私の脳は、外国から拉致されてきた人間の脳と人工頭脳のハイブリッドなの。私は兵器としてここに送り込まれた。ただそれだけの存在よ。」
「そんな……!」
メグが驚愕の声を上げる。
「他にも私のようなアンドロイドがいるわ。彼らも今、別の場所で、防衛省や重要拠点を狙っている。」
進三郎は彼女の言葉を否定したい気持ちでいっぱいだったが、冷たく光る彼女の目が、全てが事実であることを物語っていた。
「メル、やめろ!」
進三郎は一歩前に出て叫んだ。
「お前はそんなことをするために存在してるんじゃない!お前は俺の……俺たちのメルだろ!普通に笑って、普通に生活してたじゃないか!」
メルの表情が一瞬曇った。進三郎の必死の叫びに反応したのだろう。しかし、すぐにその目は再び冷たく輝き始める。
「進三郎、これは私の宿命なの。K国にとって、私たちはただの道具。自分の使命を果たすことが、私の存在意義。」
「違う!」
メグが割って入った。
「メル、あなたが何者だろうと、そんなひどいことをする必要はない!利用されてるだけだって気づいてるんでしょ?」
メルの目が微かに揺れる。しかし、すぐに冷静さを取り戻すように目を閉じた。
「利用されているかもしれない。でも、それが私の役割だから。」
メルが指を軽く動かすと、ドローンの編隊が一斉に動き始めた。それらは整然と空中を移動し、東京の方向へと向かっていく。
「待て、メル!」
進三郎が必死に叫びながら追いかけるが、メルは静かに後退し、ドローンの動きに合わせて飛び去った。
「進三郎、これ以上追わないで。さようなら。」
その言葉を最後に、メルはドローンの群れとともに消えていった。
進三郎とメグはその場に立ち尽くしていた。足元の草が風で揺れる音だけが、二人の耳に届く。
「進三郎……どうするの?」
メグが恐る恐る問いかける。
「止めなきゃならない。俺が……メルを止める。」
「でも、どうやって?相手はアンドロイドで、しかもあんなにたくさんのドローンが……!」
「とりあえず、首相官邸へ向かおう。たどり着けるかどうかはわからないけど・・・。」