第8話 ドローン編隊(前半)
昼になっても、進三郎はリビングで昨夜の出来事を思い返しながら、ぼんやりとテレビのニュースを眺めていた。
すると突然、玄関のベルと、ドアを叩く音が響き渡った。
「進三郎!いるの!?」
玄関の向こうから、メグの声が聞こえた。彼女の声にはいつになく緊張がこもっていた。進三郎は慌てて玄関の扉を開けた。
「電話がつながらないの!何回かけてもまったく届かない!」
「電話?俺には着信なんてなかったぞ。」
「うちのパパが言ってた。サイバー攻撃と混乱で、今、電話回線が完全にパンクしてるんだって!」
「今、T国へのC国侵攻、D国へのK国の攻撃に合わせて、日本もサイバー攻撃を受けているらしいの。電話回線も混雑してる状態。まともに連絡が取れないって。」
進三郎は言葉を失った。今朝、父からの電話が途中で切れたのも、電話回線がパンクしていたからだろうか。
「進三郎、あんたの妹みたいに暮らしてるメル……今日はいないみたいだけど、どうしたの?」
メグの質問に進三郎はドキリとした。昨夜の裏山での出来事が脳裏をよぎる。
「実は……昨夜、メルがこっそり家を出て行ったんだ。」
進三郎はメグに昨夜の出来事を話した。深夜、メルがバッグを持って裏山へ向かい、そこでドローンを組み立てて池に沈めていたこと。その光景がいかに異様だったかを伝えた。
「ドローンを池に沈めた……?なんでそんなことを?」
メグは眉をひそめ、混乱した様子を隠せなかった。
進三郎は肩をすくめ、答えを探すように天井を見上げた。
「正直、俺にも分からない。ただ、メルが普通の人間じゃないってことは、分かっていた。でも、あの時の彼女の行動は、いつものメルとは全然違ってて……何か隠してるような気がするんだ。」
メグは腕を組み、しばらくの間黙り込んだ。進三郎の話を聞きながら、その内容が頭の中で繰り返し響いているようだった。
確かに、メルの不可解な行動と、今日本全土で起きている混乱が、どこかで繋がっているのではないか。そんな不安が胸をよぎる。
「……分かった。」
メグは進三郎の方をじっと見つめ、決意を固めたように言った。
「その池を見に行きましょう。何か手がかりがあるかもしれないわ。」
進三郎とメグはすぐに裏山へ向かった。普段は静かな裏山も、緊迫した状況の中ではどこか不気味な雰囲気を漂わせている。草木が風に揺れる音さえも、妙に耳に残った。
「ここだ。」
進三郎は池の場所を指さした。昨夜、メルがドローンを沈めていた場所だ。二人は池のほとりに立ち、水面をじっと見つめた。
「何もないように見えるけど……本当にここなの?」
「間違いない。この池だよ。」
そのとき、、池の中からたくさんのドローンが一斉に飛び立った。プロペラ音が低く響き、進三郎とメグの頭上をかすめていく。その数は数十機もありそうに見えた。
「何だよこれ……一体何が起きてるんだ!」
進三郎とメグは息を飲んだ。そのドローンの群れを操るように、池の向こうで、ドローンとともにメルが空中に浮かんでいた。
「メル!」
進三郎が叫ぶと、メルがゆっくりと振り返った。
「進三郎……ここまで追ってくるとは思わなかった。」
メルの声は平坦で、感情を削ぎ落としたように響いた。