第6話 深夜の追跡
進三郎はその夜、布団の中でうとうとしていたが、何かの気配で目を覚ました。
廊下をかすかな足音が通り過ぎる音が聞こえた。静まり返った家の中で、足音は不自然だった。時計を見ると深夜2時を回っている。
進三郎がそっと目を開けると、メルがバッグを肩に掛けて玄関へ向かうのが見えた。
彼女は静かに靴を履き、外へ出ていった。進三郎は、急いで上着を羽織りながら、そっと彼女を追うことにした。
「こんな時間に……何をしてるんだ?」
進三郎はメルの後をつけながら、気づかれないように慎重に距離を保った。
メルは振り返ることもなく、足早に夜道を歩いていく。その姿には迷いがなく、何か明確な目的があるように見えた。
月明かりの下、メルは裏山の方向へ進んでいった。普段はあまり人が通らない道だが、彼女の足取りには迷いがなかった。
進三郎は小声でつぶやいた。
「裏山……こんな時間に何があるんだ?」
山道に入ると、辺りはさらに静かになり、進三郎は自分の心臓の鼓動がやけに大きく感じられた。
彼は草陰に身を隠しながら、そっとメルの行動を観察した。
メルは山道を進み、小さな開けた場所に足を止めると、バッグから何かを取り出し始めた。
それは小さな部品や工具だった。進三郎は草陰からじっと様子を窺い、彼女が一心不乱に作業している姿に驚かされた。
「……ドローン?」
メルは、バッグから取り出した部品を手際よく組み立て、小型のドローンを作り上げていた。
プロペラ、センサー、バッテリーを取り付け、全体のバランスを微調整しているようだ。その動きは実に手慣れていて、今まで何十回もこなしているように見えた。
「こんな深夜に……何をしてるんだ……?」
進三郎は息を殺しながら、その奇妙な光景を見守った。数分も経たないうちに、メルはドローンを完成させ、バッグから取り出したリモコンで動作を確認した。
小さなプロペラが静かに回り始め、ドローンが浮き上がる。
メルは一度ドローンを地面に戻すと、それを手に取り池へ向かい始めた。
進三郎はそっとメルの後を追い、池のほとりに身を潜めた。メルはドローンを水面に慎重に置き、そのままそっと水中へ沈めていった。
池の水は月明かりを反射してキラキラと輝いているが、ドローンは何の抵抗もなく静かに水中に消えていった。
「……何でこんなことを?」
進三郎は困惑しながら水面をじっと見つめたが、ドローンの痕跡はまったく見えない。水面は何事もなかったかのように穏やかだった。
メルは少しの間、池のそばで何かを確認するようにしてから、再びバッグを肩に掛け、静かにその場を後にした。
メルが帰宅した頃には、進三郎は彼女に気づかれないように先回りして部屋に戻っていた。
布団に潜り込み、眠ったふりをしていると、メルがそっと部屋に入ってくる気配がした。
「……ふぅ、疲れた。」
メルが小さくつぶやく声が聞こえた。進三郎は目を閉じたまま耳を澄ませるが、彼女はすぐに自分の寝床に入り、何事もなかったかのように静かになった。
翌朝、メルはいつものように笑顔で進三郎に挨拶をした。
「おはよう、進三郎!朝ごはんできてるよ。」
その明るい声と無邪気な笑顔は、昨夜の冷静で淡々とした作業をしていた彼女とはまるで別人のようだった。
進三郎は曖昧に返事をしながら、昨夜の出来事が頭から離れない。
今まで毎晩、ドローンを組み立てていたとすれば、すでに、かなり多くのドローンが池には沈んでいるはずだ。
(メル……お前、一体何をしているんだ……?)
進三郎の胸には、疑念と不安が渦巻いていた。
しかし、メルを問い詰めるべきか、それとも様子を見続けるべきか、彼にはまだ決断がつかないでいた。
進三郎の心の中で、メルの正体に対する疑念はさらに深まっていくのだった