第3話 メルのLINE大作戦(後半)
メルは、高橋に再びLINEを送った。今度は、少しだけ挑発的なニュアンスを込めた内容だった。
メルの目的は、高橋をさらに引き込むことで、自己満足に浸らせながらも、最終的には自分で墓穴を掘らせるというものだ。
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LINEの内容:「高橋さん、お返事ありがとう!私、すごく嬉しいです。本当に素敵な方ですね。
あなたがみんなを楽しませるのが得意だっていうの、すごく魅力的だと思います。
それに、パソコンにも詳しくて、いろいろ出来るって聞いています。ますます尊敬しちゃいます!
実はもっとあなたのことを知りたいと思っています。よかったら以下のリンクから、自己紹介を送ってもらえませんか?
きっとこのフォームの方が、高橋さんの素敵な自己紹介を書きやすいと思って…。
よろしくお願いします!」
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メルは、このLINEが高橋の自己陶酔を最大限に引き出すものだと確信していた。
進三郎に向かって、画面を見せながら、こう言った。
「これで彼は間違いなく引っかかるわね。自分を誇示するのが大好きなタイプには、こういう『もっと教えて』というメッセージが一番効果的なの。」
進三郎は少し呆れつつも、メルの策士ぶりに感心した。
「でも、あいつ、こんな簡単な罠に引っかかるかな…?」
「引っかかるわよ。SNSを見れば分かるけど、彼、自己アピールの投稿ばかりしてるから。」
その夜、高橋はLINEの通知を受け取った。メルが送った文面を見て、彼の顔はみるみる嬉しそうに変わっていった。
「おいおい、マジかよ。こんなに俺を褒めるなんて、誰だよ、こんな子…。」
高橋はリンクをタップし、フィッシングサイトにアクセスした。
画面にはシンプルで信頼感のあるデザインが施され、「自己紹介フォーム」が表示されていた。そこには、次のような項目があった。
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名前
趣味
自信のあること
努力していること
自分の魅力を一言で表現してください
将来の目標
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高橋はこれを見て、ますます気分を高揚させた。
「これくらい簡単だな。俺の魅力を存分に伝えてやるか…!」
彼はスマートフォンを握りしめ、自信満々にフォームを入力し始めた。
少し考え込む様子を見せながらも、「自分の魅力」をさらに際立たせる言葉を探していた。
(5分後)
高橋は入力が終わり、送信ボタンを押した。そして自分の入力内容を見返すと、ニヤニヤしながらこうつぶやいた。
「決まった…。これなら俺のファンも喜んでくれるに違いない!」
彼はスマートフォンをしまいながら、心の中で自分の素晴らしさを改めて実感していた。
数日後、パソコンサークルの活動中に、メルの仕掛けた「自己紹介フォーム」の内容が、サークルのLINEグループで一斉に共有された。
投稿タイトル: 「【注目】高橋太郎さんの自己紹介が届きました!」
投稿内容:
「皆さん、太郎さんから素敵な自己紹介をいただきました!ぜひご覧ください。」
その後には、高橋が入力した内容がそのまま貼り付けられていた。
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高橋の入力内容:
名前: 高橋 太郎
趣味: みんなを笑わせて和ませること!
自信のあること: 素敵な笑顔
努力していること: 笑顔の練習
自分の魅力: 誰にも負けない最高の笑顔!
将来の目標: 最高の笑顔のYouTuberとして有名になること!
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グループ内は、瞬く間に爆笑の渦に包まれた。
「うわっ、高橋マジでこれ書いたのかよ!」
「『笑顔の練習』って、そんな練習いるか?」
「将来の目標、痛すぎて笑えないwwww」
高橋はスマートフォンを確認し、顔を真っ赤に染めた。慌ててグループに反論のコメントを打ち込もうとしたが、指が震えて思うように進まない。
「こ、これは…何かの間違いだ!」
コメントを投稿したものの、周囲の爆笑は止まらなかった。
「お前以外にこんな自己紹介するやついるかよ!」
「高橋、お前YouTuber向いてるんじゃね?」
高橋は居たたまれなくなり、その場から逃げ出した。
進三郎はその様子を見て、隣にいるメルに向かって感謝の言葉を投げかけた。
「メル、最高だよ。これで高橋も、しばらくはサークルに来れないだろうなwwww」
メルは満足げに微笑みながら答えた。
「進三郎、私はあなたの妹でしょ?嫌な奴にはこれくらいしてあげて当然よ。」
進三郎は少し驚きつつも、メルへの信頼は格段にアップしたのだった。