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子供のころ宝物だった拾った石ころが本当に宝石だったような?

作者: タクヲ

 田中佳果(よしか)は闊達で社交的で声の大きな女の子だ。

 言ってしまえば、体育会系的な人間で、実際小学生の頃から高校の今までずっと何かしらのスポーツをやって一つの種目をやり続けるほど熱心ではないものの、個人競技でも集団競技でも何度か好成績を残せるほどであり、いわゆる体育会系的な集団規範にほどほどに従って行動するのも苦にならない、そういった種類の女の子であった。


 そんな彼女も気になる男の子がいた。


 その上村高良(たかよし)と言う男は、いわゆるオタクという種類の者で、本人曰く熱心なサブカルチャーファンではあるが、ある意味尊敬する彼ら(つまり上村の言うオタク)には至らない、とは言うがまあ一般的には立派なオタクである。と言うかそのような物言いのオタクは結構重度のオタクであろう。


 さて、そんな上村になぜ佳果のような普通はあまり接点のなさそうな女の子が惹かれているのか。

 まず二人は微妙な近所の幼なじみ、と言うより顔見知り程度で、小さい頃から存在は知っているけどさほど親しいわけではないといった感じの関係ではあった。

 まあそれはそうだろう。

 双方の趣味から行動範囲からあまり触れ合うことはなさそうである。

 二人が小さいときは今と違って内向的な女の子だったり、暴れん坊のお山の大将だったり・・・したわけでは無いので、本当に最初はただの同い年の顔見知りだったのだ。

 まああんまり引っ張る話でもないので、ネタばらしをしてしまえば、次のような事だ。

 佳果は小さいときからそれ一辺倒とまではいかないまでも、才能もあり興味も持てたことからわりと真面目にスポーツをしていたことから、ゲームもアニメや漫画・ラノベとかも話題に上がる物には多少興味はありつつ見たり手に取ったりする時間はなかった。

 しかしある時期、友達の間でとあるゲームが大変な勢いで流行っていたのである。

 それはまったく普段ゲームに触れないような子も何人かプレイしたと話すほどのもので、ローカルの突発的な流行りではあったが結構な騒ぎだった。

 件のゲームはスマートフォンかタブレット端末があればプレイできた、いわゆるインディーゲームで、低価格でダウンロードすればすぐに遊べる、パズル要素の強い一人プレイ専用のアクションゲームで、オンライン要素もランキングがあるだけで、初心者がとっつきやすい、単純ながら飽きの来ないよく出来たものだった。

 そのゲームの内容の話はまあいい。

 ようは佳果も話題について行くためと多分に人気のゲームとやらに触れてみたくて、しかし何をどうやって始めるのか、友達に聞いても当然知っているものとして話してくれるネットやデジタル用語がほとんど分からないのだった。

 当時彼女はほぼ親との連絡専用の携帯電話は持っていたものの、スマートフォンもタブレットも持っていなかったし、それで不便も不満も感じていなかったものだから致し方ないが、それでは話題のゲームは遊べないと知ったとき、ちょっと困った。

 そしてゲームがしたいからスマホを貸してくれなどという娘に親は珍しがりはしたが特に抵抗もなくちょっとの注意で承諾したものの、この親も二人ともゲームのことはよく分からないのであった。

 で、近所の上村さんとこの確か娘の同級生のタカヨシくんがアニメとかゲームとかが好きだと親御さんが言ってたような、てな事で相手方の都合まで聞いて後日手土産まで持って家族総出(佳果は一人娘である)の半ば公式めいたお宅訪問となったのだ。

 この田中さん()というのが斯様(かよう)に人付き合いの好きな人たちで、その時のことでもネットで検索するなりすれば、欲しい情報が(求めるところの、自身に分かりやすい形で、とはいかないまでも)とりあえずは得られるのに、まず誰かに聞いてみようとしたりする。

 相手方にしても押しの強さに閉口することはあっても迷惑行為があるわけでもないし、フットワークの軽い気のいい家族なので、町内活動で度々頼りになることがあると言うわけで、当時の上村家訪問も珍事と言うほどのことでもなかった。


 ただ、息子の漫画、アニメ、ゲーム、その他諸々の部屋に籠もり気味の趣味にあまりいい気のしていなかった上村の親は、ちょっとばかり困惑気味ではあった。

 田中夫婦の認識はポジティブ方向へねじ曲げられがちなのだ。

 まあ、当の本人である高良はどこ吹く風、まったく気にしてない様子ではあったのだが。


 問題は、それまでまったく眼中になかった同級生の男子が、その時、妙に気になってしまったことだった。

 そもそも異性に興味など持ったことのない佳果だった。

 しかも目の前の男子ときたら、気にかけたこともないからあまり記憶にはないにしろ、確か学校では、いつも仏頂面で、常につまならそうで、とくに体育の時間などこの世の終わりのような雰囲気でいるので、佳果は自分は楽しいときに何がそんなに嫌なのか理解できないし、ちょっと嫌な気がしたので見なかったことにしたぐらいなのだが。

 ところが、である。

 その時、件のゲームについて正直要らないことまで熟々(つらつら)と語る姿は(教えを請いにやってきた側ながら、ちょっと引くほどであったが)学校で見る姿とあまりに違い、楽しそうであるとともに妙な魅力を感じてしまって、肝心のゲームの解説のことがあまり頭に入ってこなかった佳果だった。

 あと、よく見るとやつの顔が思ってたよりすごく彼女好みのいいお顔であったことも付け加えておく。

 まあそれも、彼の体格がちっとも運動などしないため、オタクにありがちなヒョロヒョロ体型であったため、またこれもオタクにありがちな肥満よりもましとは思うものの、佳果の好みには合わないので、この時はそれ以上どうということはなかったのだが。


 そこら辺で拾ったちょっと綺麗に見えた石ころとかが宝物だった記憶が誰にでもあるはずだ。

 そんな宝物(ガラクタ)をいくつも何かの空き箱に放り込んで学習机の引き出しにしまって、だいたいはそんなもののことは忘れきっているけど、たまぁに思い出すか偶然箱を触ったりして開けてみては、なんでこんなものを大事にしまってあったんだろう、とか思いつつまたしまい込むのだ。

 佳果にとって上村とはそんな感じ止まりの相手であったのだ。

 つまり、何とも思ってなかった相手がひょんな事がきっかけでちょっと見直したものの、とくになんのアプローチもすることもなくそっと心の隅にしまってあった。

 宝箱をたまに開けるように、時々理由をつけて彼に会いに行き、彼のことを鑑賞することはあっても、そこまでであった。

 そんな感じ。

 ただし、ちょっと前に上村がある相談を彼女に持ちかけるまでは、だったが。


 さて、そんな田中佳果は高校生になっても、たまにちょっと興味を持ったゲームとか漫画とかに触れることはあるようになったけど、相変わらずスポーツ三昧の毎日だった。

 勉学やスポーツ以外の友達付き合いも普通にこなしはするが、相変わらず恋愛とか推し活とかにはあまり興味は持てないでいた。

 そんな日々に変化をもたらすきっかけを持ってきたのが、上村高良のとある相談だった。

 少々上村との接点ができた過去のあの出来事以降も、彼から佳果に何か話しかけてきたり近づいてきたりすることは、その兆しも感じられなかったのだが。

 ある日、佳果にとっては本当に突然に、ほかにこんな相談ができる人が思い当たらない、とか言って、上村から話があったのだ。

 その相談というのが、体力のなさ、あるいは健康維持についてだった。

 まったく唐突に受けた相談だったが、その内容自体に協力するのは全然かまわなかった。

 なんで突然体力をつけたいなどと思ったのか訊いても曖昧な返事しか返らなかったが、どうせ何かアニメとか小説か漫画の影響だろう。

 ならばとやかく言わずに協力したい。

 ちょっと気になるけど距離感が大きい男の子がこっちのフィールドにちょっと寄ってきたのだ。

 チャンスじゃないか。


 そしてトレーニングの日々が始まる。

 日々、と言っても、さすがにこれまでずっと運動不足の人生を送ってきた上村であるから、毎日みっちりやるのは無理で、彼が挫折しないように、よく考えたペースで始めたわけだが。

 それに佳果だってそんなに暇なわけではない。ずっと続けてることの時間を減らしてまで上村を鍛えてやるほど入れ込む気は、なかった。

 ところが以外とと言うか知らなかったと言うべきか、上村という男、真面目というか根性があると言うべきか、とにかく一度決めたことはやり遂げようという気概が感じられた。

 まあ、自分が望んだことで女の子がアシストしてくれていて、それが思ったよりしんどくても、なかなか成果があらわれなくても、挫折なんかしてたら大変かっこ悪いわけだが。


 とにかく、なんと数ヶ月後、筋肉が付いただとかわかりやすい結果はまだちっともないのだが、彼が言うに当初の目的であった『健康になる』と言うことについては、なんだかご飯は美味しいし健康にはなってる気がする、と言うことで、二人ともご機嫌で、そしてまた数ヶ月・・・


「なんか違う。だって、数日運動しないだけで前より調子が悪くなるんだ。家に籠もってじっとしてたら途端に体調が悪くなるんだよ。なんか違くない、これ」


 君を非難するわけでも、この結果が一般に悪いわけでもないことは理解しているつもりなんだけれども、敢えて言わせてくれ、などと言って吐いたセリフがこれだった。


 佳果、正直なに言ってんだ、と思った。

 だって、分からないもの。


「僕はさ、不健康な生活でもある程度健康維持できる体力が欲しかっただけなんだ。好きなことをやってても身体を壊したらバカみたいだからね。僕はね、できるならずっと部屋に籠もってマンガ読んでゲームやってラノベ読んでネット動画観て・・・ずっとそうしてたいんだ、いや、それが駄目なのは分かってるし、幸いそうするしか生きていけないってほどほかのことが辛いわけでもない。ああ~、そんな顔しないで聞いてくれ。つまり僕は運動なんか大嫌いなのに身体を動かしてないと途端に体調を崩すらしいこの体質が憎いって事なんだよ。鍛えて貰ってこうなんじゃなくってたぶん体質だこれ。ああもうどうしたらいいんだこれ」


 まくし立てるように一気に身振り手振りも交えてそう言う彼の言葉もやっぱりよく分からない。

 そしてそういう彼は近頃彼女の指導ですっかり引き締まった良い体つきでしゃんとした姿勢の素敵なお顔をした理想的な見た目になってて、健康維持のために今後も一緒にトレーニングもできるようだし、何が悪いんだか本当にさっぱり分からないのだった。


 おわり





そんなジャンルがあるかは知らないけど、

よくある、オタク男子×アクティブ女子もの

・・・ではない、ただの『オタクの愚痴』で、

最後にだけあるセリフがこの話の全てなのです。

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