8話~白いゴブリン
クロエの探知は自身の魔力を自然に存在する魔力の濃度にまで薄め拡散することで成しえている。それは途轍もなく高度な技であり、実際にやるには途方もない努力を必要とする上効率的にはかなり悪く実際にやろうという者はいないため、普通であれば考慮しない
しかしそれは人間の尺度で図る時であって魔物は例外だ、魔物は魔力にたいする感覚が非常に鋭い。そしてそれは実力があるほど顕著になり、ゴブリンロードともなればクロエがその魔力で軍勢を触れたのと同時に気が付いていた。
そしてクロエの実力を過大も過小も無く等身大で捉えていた。相手の実力を正確に測る、その力は魔物として長く生きる上では必要不可欠な要素だった。特にこの軍勢を率いている白いゴブリンロードは、魔物の中でも弱いと分類されるゴブリンから成り上がったのだから、相手を測る力がより強いのは必然であった。
5年前、突然変異として普通のゴブリンから体表が白く、赤い目をもったアルビノ個体が生まれた。繁殖力が高いゴブリンにとってアルビノ個体は数が少ないもののそこまで珍しいものでもなく、ましてや特別なことなどない、むしろ周囲の景色から浮く白さは敵から発見されやすくなりデメリットしかなく、他のゴブリンから見捨てられた。
広大な森の中で生きるには狩りをするしかなく、それができなければただ死にゆくだけだった。それでも白いゴブリンが生き延びられたのは、加護が与えられていたからだった。
まれに神はいたずらに魔物に対しても加護を与える。
白いゴブリンには【食う者】と呼ばれるただ、食う事に特化したスキルが与えられた。毒物、劇物、非可食物問わずに口に入れば食って栄養とすることができる。そのため森に生えている草木やキノコ、ときには土や岩を食べて生き延びた。だがただ腹を満たせているだけで、生きているとは言えなかった。
ただ死んでいないだけ、だが状況を変える力がなかった。
ある日【レッドテイル】と呼ばれる狼のような魔物の群れに襲われた。その名の通り、赤い尾が目立つ。灰色の毛並みは周囲の景色に溶け込み、あまりの速さで走るがゆえに尾の赤さが目に残像として焼き付く。目立つ容姿のまま繁殖できた背景には純粋な強さがある。衰弱した1体のゴブリンなど敵ではなかった。
目にも留まらぬ速さで繰り出される爪は、抵抗なく肉を裂き、牙は容易く腕を食いちぎった。至る所から血が噴き出る。白いゴブリンの頭は死への恐怖で染められていた。肘から先が無い腕を口に運び、自身を食らう。その光景に一瞬レッドテイルが動きを止めるほどの異様な光景。食ったことで得た栄養が腕からの出血を止めるための再生に回されるも、新たに腕を生やすことはない。
血は止まったが腕も無く、既に逃げるだけの余力も無い。膝から崩れるように倒れ込んだ。攻撃を仕掛けていたレッドテイルの一匹は予期せぬ動きに対応が間に合わず、白いゴブリンの下敷きとなった。
その瞬間、そのレッドテイルの強靭で柔軟な毛皮が食い破られた。強く引き絞られ放たれた矢さえ傷つけることが叶わないレッドテイルの皮膚に容易く歯を立てられたのは加護があったからにほかならず、咀嚼し飲み込み消化するという過程も無く栄養となったのもその加護によるものだった。
一瞬にして最弱であり仲間外れとされた白いゴブリンは、レッドテイルという格上の肉を食らい、飲み込み、消化しそして力を得た。魔物の肉は多少なりとも魔力を含む、強い魔物であるほどその量は増加する。レッドテイルともなる魔物であればその量は通常のゴブリンの50倍にも至る。ただその含有する魔力量だけで強さを測れるわけではないが一定の基準にはなる。実際人間たちが魔物をランク分けするときはその魔力量をもとに算出している。そして人間をはじめとする魔力を保有するものはそうして魔力を含むものを食べることで力を得る例が存在する。ただし得られる恩恵はひどく微量のためそれこそ魔物中でも別格と言われる龍種の肉程度でなければ目に見えた効果は得られない。
だがそこに【食う者】の加護があれば話は大きく変わる。白いゴブリンは日々森にあるものを拾っては食べていた。その中には魔力を含ませることができる魔鉱石や魔草など普通は食べれないものもあった。そして食べるたびにその特性を蓄積させていた。それゆえに白いゴブリンの体は常に魔力に飢えていた。自身の得ている栄養が少ないにも関わらず、胃袋だけが巨大化していくような、ある種の飢餓状態に陥っていた。そしてその飢餓状態の時摂取した栄養は全て余すところなく吸収される。
白いゴブリンの足が赤く変色した
レッドテイルに比べれば速度は劣る、しかし今まさに死にかけ倒れた者の突然の突進に不意を突かれたかたちとなるレッドテイルは躱すことができなかった。ドンっとぶつかった音の後にぐしゃりと肉がつぶれた音と、レッドテイルの悲鳴、直後血しぶきが上がりそれをすするように食らう。
白いゴブリンの体が次々と降り注ぐ血の雨によって真っ赤に染め上げられた頃には周囲にレッドテイルの姿はきれいさっぱり消え去っており、その後5分たらずでその一体の地面までくりぬかれたように消失した。
それから時々人間の間で白いゴブリンの話が話題に上がるようになる。
しかしたかだかゴブリンだと思われ、特段気にされることはなかった、だが確実に白いゴブリンは成長し、森の頂点に立つ。少しずつ数を増やし勢力を強くしていった。最初に白いゴブリンについて噂が上がってから現在まで、この森での消失者は100人に達した。もともとレッドテイルの住処であったこの森の難易度は中級指定されているため、死亡する冒険者も少なくなかったが、それでも骨や遺品、死体などがその後発見されることが多かった。
しかし最近それらが一切見つからない。
白いゴブリンは、いまやロードを語れるほどに力を付けていた。
その白いゴブリンはゴブリンとしての体躯をそのままに、内包する魔力量は龍を凌駕する。
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