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7話~ゴブリン・ロード

「んっ」


クルミの艶のある声が静かな森の中で鳴る。クロエはとその声に顔を紅潮させながらもワンピースの裾から手を突っ込んでクルミの胸に手を当てている。クロエが力を込めるたびにクルミは体を過敏に反応させ声を出す


『ちょっと声は我慢できないのか?』


さすがに森の中でそのような声を出されては不必要に注目を集めてしまう。クロエの実力であれば退けることは問題無いができるだけ戦闘が避けれるならばその方が良い。


「強弱の波が激しすぎると少し誤作動を起こしてしまうようで、それならいっそ強くして貰えた方が良いかも知れません」


『ならもう少し強めにいくぞ』


クロエは手に一層の力を込めるとクルミは淡々とした声音で答える


「一定に供給される分には誤作動もないようです」


『ならよかった』


クロエの表情は火に照らされただけでは説明がつかないほど赤く染め上げられており、対照的にクルミはいつも通りの無表情だった。今2人が行っていたのは雷属性魔法による実験で、それは成功したと言える。だがそれ以上に充電箇所に問題があった。人間でいう心臓の辺りに受電部があるため、そこに触れている必要があり、先刻の雷龍のような全身に雷魔法を浴びせる事でも充電は可能だが、効率が悪い事と万が一にも不具合が出ることを避けるため、直接触れながらという手段となった。普段のクロエならば魔力の強弱の一定化など朝飯前だが魔法師というものは環境の変化が苦手な傾向にある。



家政婦ロボを元に作られた副産物的兵器であるクルミの素体は、あくまでも家政婦を元にされている。それはすなわち主人の世話を全てこなすタイプのロボだった。それゆえに人肌が恋しい時の相手にもなれるよう作られており、その質感は本物以上に本物だった。母以外の女性に触れたこともなく、本で得られる知識だけに留まっていたクロエには刺激が強く、触れていた手は心臓と同期して震えていた。


それをごまかすようにして、クロエは感知したイノシシのような魔物【マッスルボア】の首だけを土塊で撃ち抜き、クルミに調理を頼んだ。マッスルボアは成体で40センチほどしかない小柄な魔物だが、全身が筋肉であるがゆえに驚異的な速度で突進してくる。数は多くないがその強さ故に希少価値が高いものの食料としてはあまり好まれておらず、一部のマニアが買取をしている程度の食材だった。


『熱くないのか?』


「問題ありません、1500℃まで耐えられるように作られています。」


木の枝に魔物の肉を突き刺した物をクルミが片手に2本ずつ、合計4本持って焼いている。手首はぐるぐると回転しており、はじめはその光景にぎょっとしていたクロエも肉の焼ける匂いに誘惑され、意識をそちらに集中させた。


料理と言えば家政婦ロボの真髄であると言えた。筋っぽかった肉質は面影も無く焼き加減は完璧で歯を立てればほろりと肉が溶け出し、肉汁は永遠に湧き出るのでは無いかと思うほどジューシーだった。あまりのおいしさにがっつくクロエは途中で何度か咽掛けるが、そのたびに空中に作り出した水の塊を飲んで飲み込んでいた。


勢いよく食べるクロエの対面で、クルミも同じように肉をほおばっていた。一緒に食べるのは必要な機能だったし食べたものの成分分析も行える。好き嫌いは無く摂取した栄養素は全て搭載されている兵器のエネルギーとなる。クルミ曰く火を通したほうがエネルギーへの還元効率がいいらしく、残った部位も含めて全てクルミの口の中へと消えていった


肉を食べ終えたクロエは、木々の隙間から除く星々を見上げながら、さきほどの充電を思い出していた。


「マスターの心拍数が急上昇しました、何か体に異常がありましたか?」


クルミの声にクロエは体をビクりと跳ねさせるも顔を向けることはなく文字だけで答えた


『大丈夫だ、眠れば良くなる』


そう言って葉を敷き詰めた簡易的な寝床に座り込み、クルミに背を向ける形で横になった。その背中はクルミはじっと見つめ、クロエの鼓動が正常値になるまで視線を逸らすことはなかった。


拡散する魔力の密度を上げることによって、魔物を牽制し続けたおかげもあり、夜襲される事態にはならなかった。日星がある程度昇ると、森の中は彩を取り戻し、草木の擦れる音以外の音色を歌い出す。


水属性魔法を使って身だしなみをある程度整える。纏っている魔力の影響で外的な刺激は大抵防げているが、自身が生み出している脂などは洗い流すほか無い。それに足してクルミは自浄作用がある上ロボ故に汚れる事はなく、腕を変形させてクロエの髪をとかしたり、温風をだして乾かしたりしていた。手首が折れた時は、雷龍の首を弾き飛ばした一撃を思い出して、クロエが一瞬身構えていたりした。が一流の使用人のように洗練された動きに次第に身を任せていくようになった。


『行くか』


焚火の跡など野営をした痕跡そのものを土属性魔法で埋め、何事もなかったようにし立ち上がる。


「はい、マスター」


クルミの返事を聞くと昨日と同じ方角へと歩みを進めた。それからの道中は昨日とさほど代わりは無く、クロエが感知しては魔法で倒すの繰り返しだった。森の中に生息する魔物は獣種と呼ばれる魔物の種類ばかりで、イノシシや鹿、ウサギといった元々生息している獣の魔物化したものが大半だ。


普通の獣と魔物の違いは単純に魔力の有無にある。それで言えば人間も魔物に分類されるがなんのプライドか、人間はあくまでも人間種であった。


また、魔物は日中であれば自身の嗅覚や視覚を頼りに敵を探すが、夜になると魔力を用いるようになる。そのため野営をするときは、野営地の周辺の魔力を濃くすることで攪乱させ魔物が寄り付かないようにする事が推奨されておりそれを専門とする魔道具もあるくらいだ。魔力を匂いに置き換えるなら強烈な匂いで鼻の機能を止めるといった具合。


「マスター3キロ先に魔物の群れを発見しました」


歩いていると突然クルミが声を上げる。クロエの魔力索敵であれば半径2キロ程のため感知より外である。クルミが気付けたのは障害物が偶然なく直線上にそれらが居たからだ。肉眼であれば絶対に気付かない距離だが、主人の手助けをしようと目の機能で望遠をしていたクルミは偶然それを捉えた。


『確かに凄い数だな多すぎて数の把握も出来ない』


クルミの示した方向に重点的に魔力による探知範囲を広げる。三角形のような形にすることで、一方向への探知距離を伸ばす。それにより普段よりも遠い距離までもを把握することが可能だがそれによって得られた情報は、クルミが目視で確認したものと同程度だった。


『ゴブリンの群れだ、それもゴブリンロードクラスが率いている可能性がある』


この世界でゴブリンと言えば、初心者冒険者用の練習相手とも呼ばれ、二足歩行しているため武器や道具を使うが、知能レベルや動きは人間の5歳児と同程度。しかし繁殖能力が高く個体の寿命が2ヶ月から半年と非常に短い為生物としての本能か、数の増加は一気に起こる。ただそれでもある程度訓練を積めば数が多くとも脅威ではない。


しかし、それでも戦闘を生業としない一般人からしてみれば数が多くそして無鉄砲で規則性がなく道具を使ってくる相手は脅威以外の何物でもなく、基本的には見かけ次第討伐ということで、どの冒険者ギルドでも討伐報酬は常時依頼として上げられている。


だが2人の目の前に居るのは群れである。ゴブリンは通常2-5体ほどの集まり行動する。理由としては数が増えても一定以上の狩りの成果を上げることは出来ず、1体のときよりも狩りが成功しやすいからということが本能で分かっているから。だが例外はある、それはクロエが言ったように上位種が居る時だ。


ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキング、ゴブリンロード、ゴブリンエンペラー

と弱い順に並べていく、そのうちでクロエが予測したのは上から二番目のゴブリンロードだった。キングとロードでは率いる数に違いは無いものの小隊が作られるという明確な違いがある。キングはあくまでも王であり王自身がゴブリンたちを率いるのに対してロードはゴブリンよりも上位種であるホブゴブリンやゴブリンジェネラルがそれぞれ10体以上のゴブリンを率いた小隊となる。


目視では不明だが魔力を介して触れたクロエには分かった。キングよりもロードが勝る一番の理由は、下位のゴブリンたちに対しての強化魔法にあった。

統率するゴブリンの中でも順位が決められており、その順位が高いほどに恩恵を得ている、当然1位はロード自身だが、2位にもなるゴブリンの強さは単体であればキングに匹敵する。


『ここは身をひそめながら移動しよう』


ゴブリンロードの強さはクロエで単身討伐が可能だと判断したが100以上は数える程のゴブリンの軍勢を相手にするには相打ちを覚悟しなくてはならなくなる。クルミの攻撃も合わせれば殲滅もできなくは無いが無傷とはいかないだろう。それらを踏まえた結果クロエは逃げることを選択した。


しかし、クロエの判断は誤りであった。

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