第9話 魔法
〈sideルーク〉
僕にそう声をかけられて説明を開始するフィール。
「不安定な状態の魔力をものにまとわせます」
開幕早々に意味の分からないことを言い始めるフィール。僕には意味が分からない単語が多すぎてどこから突っ込んだらいいのか分からない。
「待って待って!」
思わず僕が叫ぶとフィールは説明を止める。
「どうしました?」
そう言ってフィールは小首を傾げる。
「何にも分からないんだけど」
何一つとして分からなかった僕はそう言うことしかできなかった。
「⋯⋯えっと、どこからでしょう?」
「どこも分からないんだよ!」
僕がそう言うとフィールは少し考えこむ。
「⋯⋯まず魔法って何か分かります?」
ようやく顔を上げたフィールはそんな質問をしてきた。
「魔力を変質させて物を生み出すこと?」
僕の知っている範囲で魔法について説明するとこうなる。
「なるほど、分かりました。まず、魔法っていうのは二種類に分けられます」
何が分かったのかは疑問だけど、フィールは納得したような様子で、説明を始めた。
「マスターが先ほど言ったように、魔力を変質させたものを扱う魔法」
そう言って、手元に水の塊を浮かべるフィール。水のような流体を手元に浮かべるのはかなりの高等技術だが、それをあっさりとフィールはやってのける。
「で、もう一つが魔力を変質する前の状態で留めたものを扱う魔法です」
そう言ってフィールは手元に浮かべていた魔法を近くの木に向かって飛ばす。木はパシャっと水を浴びただけで特に何事もない。それだけなら、僕らにも簡単にできるが⋯⋯。
「とは言っても、どちらも使えないとまともに魔法にならないんですけどね」
「どういうこと?」
僕らは知らず知らずのうちにどちらの種類の魔法も使っているのだろうか。
「前者だけだと物を作るだけで、それは動くことはありません」
言われてみたらそうだな。僕らが使う魔法が物を作るだけなら、魔法を飛ばすなんてことができるはずもない。
「後者だけだと、実際にあるものだけしか使えません。それだけでも使えないわけではないのですが、魔力で物を作ったほうが、扱いやすいです」
確かに形を自由に指定できるほうが、扱いやすいだろうな。
「要するに、この二つを組み合わせて扱うものがマスターの言う魔法です」
「なるほどね。で、後者の魔法に使う魔力っていうのが不安定な魔力ってことだよね?」
確かに、形になる前の魔力を扱うのであれば不安定な魔力と言ってもおかしくないだろう。意識的にそれを扱えるのかは分からないが。
「はい。概ねその認識でいいかと」
僕の問いにフィールは肯定を返す。
「とりあえず、マスターの魔法を見せてもらえますか?」
フィールは僕に向かってそう言った。
僕の魔法か⋯⋯。以前にも言ったように、僕はバフ、デバフを専門的にやっていたため、世間一般で言う魔法と呼ばれるものは苦手だ。バフ魔法をかけろよと思われるかもしれないが、この説明の状況だと適切とは言えない。
⋯⋯まあ、下手くそな魔法でいいか。そう考えた僕は、先ほどフィールがやったように水を手元に浮かべる。
フィールのようにきれいな球体にはならないが、浮かべることはできた。その水の塊を近くの木に向けて飛ばす。木はパシャと水を浴びるが何事もない。
「なるほど。水を作った周りに空気の膜を作ってるんですね。それを空気を想像した後の気圧差で飛ばすと」
僕の魔法を見たフィールは何やらそんな分析をしている。そんなに気にして魔法を使ったことはないのだけど。まあ、フィールの言っていた魔法の使い方ができない以上、そんな方法になってしまっていたのだろう。
「⋯⋯それなら私のやり方のほうが魔力の消費は少なく済むでしょうね」
一通り考えの整理ができたのかフィールはそう口にした。魔力の消費はあまり気にしたことがなかったなと、言われてから思い出す。確かに、魔力切れは魔法使いにとって大きな問題だった。魔力がなくなるほどに魔法を使った記憶がない僕には関係ないとばかり思っていたが⋯⋯。
いざそう考えだすと、僕の魔力量がどれだけあるのかと気になってくる。
「魔力量って測れないの?」
話を遮る形になるが、僕はフィールにそう聞いていた。
「そうですね。魔力を数値にするのは私の知っている範囲では難しいです」
フィールならと少し期待していたが、フィールはそんな答えを口にする。
話を変えられてもフィールは嫌な顔一つせず答えた。そこはありがたい。まあ、人間らしくないともいえるのかもしれないが⋯⋯。
「⋯⋯数値にはできませんが、大体の魔力量なら分かります」
少し落胆気味だった僕にそんな朗報が告げられた。まだ最後まで話していないのに落ち込んでいたのは僕だけど。
「僕の魔力量がどれくらいか分かる?」
「⋯⋯」
僕がそう聞くと、フィールは少し目をつむって集中する。そして、しばらくしてから言った、
「大体、私と同じくらいですね」
⋯⋯フィールと同じかぁ。それはかなり多いんだろうなぁ。それを聞いて、僕は現実逃避するように心の中で、そんな感嘆を漏らすのだった。
イ「お久しぶりにもほどがあるほどの遅刻なわけですが⋯⋯」
宵「どうしようもねえやこりゃ」
イ「開き直るんだ」
宵「⋯⋯まあいろいろあるんですよこちらにも」
イ「この間二万字くらいの短編を書いてましたね」
宵「こっち用に書いたわけじゃないからね、出すわけにもいかないんだよね」
イ「個人情報大事!」
宵「大事!」