第8話 空間収納
〈sideルーク〉
早速フィールは果実を集めるために姿を消した。気づいたら消えていた。僕とフィールはやっぱりとんでもなく力の差が開いているんだな⋯⋯。今後の目標の一つとしてフィールの動きが分かるようにはなりたいな⋯⋯。同党の実力とは言わないから。そうすれば僕の魔法でバフのサポートができる。まあそんなことしなくても一撃で敵を葬るんだろうけど。
そんなことを考えているうちに、僕の目の前に一抱えほどの果物がたまっている。ここまでわずか数秒の出来事だった。⋯⋯そう、わずか数秒で一抱えの果物が集められた。
「ストップ!ストップ!」
僕はすぐにフィールを止めた。⋯⋯止めたつもりだった。
フィールの姿が見える程度まで止まった時にはもう、山となった果物があった。
「どうしました?」
フィールは僕の前に立ってそんなことを聞いてくる。当人は全く気付いていないが、大問題でしょう。この山になった果物、どう考えても食べきれるとは思えない。そもそも、こんな量を持って歩くこともできないだろう。フィールなら抱えて歩くことくらいならできそうだが⋯⋯。
「いや、こんなにあっても持っていけないでしょ」
僕はフィールにそんな疑問をぶつけるが、フィールは首をかしげる。
「いえ、持っていけますよ?」
さも当然のようにフィールは言う。
この量を抱えきれるのか⋯⋯。僕はそんなフィールの言葉に少し呆れる。
「⋯⋯仮に持てても、この量を抱えて歩くのは傍から見たら変だからやめてほしいんですが」
山になった果実を抱えて歩く姿は異常にしか見えないだろう。小柄なフィールが山になった果実を抱えたら彼女の姿は見えずに一見、動く果実になるだろう。まあ、しばらく人と会う予定はないのだが⋯⋯。
「空間収納できますので」
空間収納?聞き覚えのない言葉に僕は首を傾げる。
「⋯⋯空間収納というのはですね、魔力で作った容器に物を入れて異空間に転送する魔法です」
そんな僕の様子を見てフィールはそんな解説をする。正直に言うと何を言っているのか分からない。単語単語の意味は分かるのだが、魔力で作った容器ってなんだって感じだし、異空間に転送するとかも正直意味が分からない。
⋯⋯とりあえず、いっぱい物の入る魔法ということでいいのだろうか。
「えっと、物を収納できる魔法と」
「そうですね。要するにそれでいいかと」
それでいいのか。先ほどの説明の分かりにくさのわりに、効果は単純な魔法だ。⋯⋯まあ、聞いたこともないのだが。確かにものを見た目よりも多く収納できる鞄はある。それも収納量に制限があるし、かなり高価だ。ダンジョン内からまれに発見されるらしい。⋯⋯フィールが元になっているのがダンジョンならばその中から出てくるものがフィールの能力を持っていても不思議ではないのか。詳しくは分からないから、確証があるわけではないが。
「そうなんだ⋯⋯」
僕はそんな反応を返す。
「⋯⋯やり方教えましょうか?」
言っていることが分からず、思考放棄をしていた僕を見てフィールは僕にそう声をかけた。
思考放棄しているとはいっても、言葉の理解力がないわけではない。フィールの異常な発言はしっかりと理解した。
第一に魔法というのは、魔力を操作して現象を生み出すものだ。いくつかの工程はあるのだが、こういう認識でいい。そもそも、原理に関しては理解している人が少数派だ。その理解しているという人も理論を提唱しているくらいで、実際に理解しているとは言えないだろう。
だったらなぜ使えるのか、という話だがなぜか使えるとしか言えない。先ほど言ったように理論はあるが確実にこうだというものはない。その現象をイメージできれば使える。要するに、非現実的なことは僕らには想像もできないのだからできない。
異空間に物を入れておくという行為では、異空間そのものを信じなければまず使えるはずもない。異空間の存在を信じる人はいてもそれがあるのだと確信を得ている人は少ない。いろいろと説明したが、結局のところフィールの空間収納という魔法は異常なものだということだ。
話を戻して、人が魔法を覚えるとなるとまず、魔力の知覚から始める。血管のように体全体に魔力の管が広がっているイメージを持つことが多い。その魔力を変質させて魔法という形にする。
この変質させる過程で変質先のイメージを持たなければいけない。炎なら魔力を燃やすイメージを。魔力を炎に変えることはできないことから、炎はものではなく現象であると分かったらしい。その話は置いておいて、フィールの言う教えるという行為は何を想像すればいいのか教えるということだ。風魔法なら空気とか。ただ、魔力の器という存在を僕は知らない。だから、現状発見されていない物質をフィールは想像できるということになる。
「そろそろ説明してもいいですか?」
僕がフィールの異常さを脳内で説明していると、フィールがそう声をかけてきた。フィールは異常だが、単純に空間収納は便利な魔法だ。正直に言えばぜひとも身に着けたい。これが普及するとかなり面倒ごとになりそうだから多くは広めたくないが⋯⋯。
「大丈夫。説明をお願い」
僕はフィールにそう返答する。欲に負けた僕です。とはいえ、これから旅をするならとても便利な役に立つ魔法だろう。僕はそう結論付けてフィールに説明を頼むのだった。
宵「更新がとんでもなく遅くなってしまった⋯⋯」
イ「再試二つに研修と怒涛の日程だったからね」
宵「その前の休日に書き溜めておくべきだった」
イ「後悔先に立たず。とりあえず、あとがきしないと」
宵「そうだな。今回は魔法の説明だったな」
イ「こんな説明回って需要あるの?」
宵「⋯⋯読みづらいだけっぽいけどね」
イ「イメージが魔法とはよく言うけどね」
宵「どこまでイメージ出来たらいいのか分からないんだよね」
イ「それに、異空間の存在を信じる人っていうのもいっぱいいそうだし」
宵「それこそ、一部の数学者くらいだよ。とはいっても知っているだけじゃ魔法は使えないし」
イ「??」
宵「これはあくまでルーク君の主観です」
イ「はぁ」