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最終話 心

「あぁ、そっか」


 流れ落ちる涙は止まることを知らず、流れ続ける。


「君はそんなに成長してたんだ」


 この涙はきっと私のものじゃない。


「ねぇ、君の言ってた都合のいい展開ってやつもあるもんだね」


 いやいや、本当に。私にも全く予想のつかない展開だよ。


「あぁ……」


 私の口から私のものではない言葉が漏れる。


 そうして、表現するならば合わないパズルのように、私の心は押し出される。


 最後のかけら、それは心だ。私の心が入るはずだったその場所には、少しずつ、あの子の心が生まれていた。


「これはきっと、ハッピーエンドだ」


 私はそう言葉をこぼして、彼女の中から出て彼の中へと戻っていく。


 だったら、これで終わりにしよう。これ以上、死んだ人間である私がかかわる必要はない。


『じゃあね。二人とも、お元気で』


 伝わっているのかは分からない。だけど、私はそう言い残して消えていく。

 正直に言ってしまえば、彼らのその後を見ていたいのだがまあ、それは野暮って奴だろう。

 本来は、あの場所で終わったはずの私の人生がここまで彼らの人生を眺めることができたのだ。十分だろう。

 そうして、私の意識は消えていく。

 そうだなぁ、天国では彼らに会えるといいな。かつて冒険した彼らの姿を思い浮かべながら私はそんなことを思うのだった。



〈sideルーク〉


「……ん?」


 そうして、僕は目を覚ました。


「ま、すたー?」


 僕にもたれかかって泣いていた少女が顔を上げる。


「……あれ?僕は」


 フィールに僕の中にあったかけらを返して、そのまま死んだはず。


「マスター!」


 そんなことを思い返していると、先ほどまで泣きじゃくっていた少女、フィールが僕に向かって飛び込んでくる。


「わっ!」


 そんなフィールの様子に僕は驚く。


「ますたぁ、勝手に死なないでください」


 涙でぐちゃぐちゃになっていた顔をぬぐってフィールはそんな言葉を言う。


「ご、ごめん」


 こんなに、泣かれるとは思ってもいなかった僕はそんな返事しかできなかった。


「なんで僕は生きてるんだろう……」


「それは、まあ、秘密です」


 僕がそんなことをつぶやくと、フィールは若干顔を赤くしてそう一言。


「ひ、秘密?」


 いや、死んだと思っていたのに生き返った理由だよ?秘密にする必要ある。


「秘密です。マスターは奇跡が起こったとでも思っておいてください」


 奇跡って……。まあ、奇跡が起こったとしか言えない、か。


 そんな言葉で片づけていいのか分からないが、フィールは何か知ってるみたいだしいいか。


「そういえば、フィーアは……」


 ずっと黙ってるな、と思って声をかけてみたが、返事はない。


「彼女はもういなくなりましたよ。きっと、前の仲間と一緒に居るのでしょう」


「あぁ、そっか」


 もう、あの世に行っちゃったのか。最後に、お礼くらい言いたかったな。

 彼女には助けられてきた。居なかったら、僕はここにはいないだろう。


「私も泣いてて何も言えなかったので、少し心残りです」


「全くだなぁ。流石、勇者様だ」


「流石というのでしょうか?」


 戸惑った様子のフィールに僕は吹き出しそうになりつつ、フィールに目を向ける。


「まあ、フィールが生きててくれてよかったよ」


「それは私のセリフです!私のためだからって命を投げ出さないでください!」


「あれ?フィールのためって言ってたっけ?」


 確かに、世界を救うとかよりも、あのままだとフィールが死んじゃうからって面が大きかったけど、そんなこと言ってたかな。


「……!」


 僕の返した言葉にフィールは、口をパクパクとさせて顔を真っ赤に染めた。


「なんとなくです!」


 やけくそ気味にそう言ってフィールは黙り込んでしまった。


 ……かわいいな。


 そんな様子のフィールを見て僕はそんな単調な感想しか持てなかった。


「ま、まあ、心配させてごめんね?」


「心配とかより、フィーアさんの記憶から死んだと思ってたので悲しかったんですよ?」


「悲しんでくれてたんだ」


 今更だけど、あの無表情だったフィールがそんな風に思ってくれるなんてなんだか、感慨深いなぁ。


「私をなんだと思ってるんですか!」


 そんな感想を抱いていると、フィールからそんな抗議の声が発せられた。


「そういえば、災厄ってどうなったの?」


 ごまかすように僕は話題を変える。


「災厄は一撃で蒸発しました」


 巨大なクレーターを指さしながらフィールは告げる。


「一撃?」


「一撃です」


「あれを?」


 クレーターは災厄の数倍の大きさがある。あれを一撃で空けるのか……。勇者って怖いね。


「記憶の魔法より圧倒的に高威力でした」


「キレてたのかなぁ」


「でしょうね」


 いや、ほんとに。ここまでくると恐怖しか浮かんでこないよ。


「ってことは、世界は救われたってことかぁ」


 災厄が消し去られたとなれば、もうこれ以上の危険はそうそうないだろう。


「そうですね。次があっても、私が一人で倒せるようになります」


 そうですか……。フィールの言葉に若干恐怖を感じつつ、僕はそう言葉を返した。


「ねえ、フィール」


「なんですか?」


 フィールの体をすべて集めることができて、この旅はひと段落ついた。だからこそ、改めて、言っておこうと思ったのだ。


「これからも、一緒に居てくれる?」


 その言葉を聞いたフィールは、きょとんとした顔を浮かべた後、


「当然です。私とマスターは切っても切れない関係なんですから」


 そう言って、笑みを浮かべるのだった。


宵「これにて、最強少女は終了です」

イ「ここまで読んでいただいた方ありがとうございます」


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