第68話 真実
僕の考えは合ってる?
その答えを知っているであろう人物に問いかける。
『……で?君はどうするの?』
そして、一瞬の間をおいて。
『まあ、なんとなく分かってるよ。ただ、私は反対だよ』
だから、黙っていたと。
『そう。都合よく勘違いしてくれたからよかった~って思ってたんだけどね』
つまり、最後のフィールのかけらは最初から僕が持っていたんだね。
僕の考えは違っていて、フィーアはフィール由来の存在じゃなくて僕由来の存在だったということだ。
フィールのかけらを人間が取り込んだら暴走するはずだが、以前フィールが言っていた。
幼いころから取り込んでいたら適応する可能性があると。だから、僕はダンジョンが崩壊した時期に僕はフィールのかけらを取り込んでいたのだろう。自発的にか他者によってかは分からないが、僕が生まれた直後にそんなことが起こった。
だから、僕はマスターだったのだろう。主人格であるフィーアを取り込んでしまったのだから。
『あぁ、そこは補足しておこうか。君は本来体が弱くて死んでしまうはずだったの。そこで私の力に目を付けたお父さんが君に取り込ませることで存命させようとしたって感じ』
なるほど?そういう事情があったのか。自分のことだけど全く実感がわかない。
『だから、お父さんにあの子と引かれ合ったって言ってたの』
僕の中にフィールのかけらがあったからこそ、あのダンジョンでフィールと引かれ合って封印が解かれたのだろう。
『ちなみに君を助けたのは私ね。私も目覚めきってはいなかったけど、体借りて応急処置はしておいた』
ありがとね、フィーア。
『……で?君はそれでいいの?』
そうするしかない、でしょ?
フィールが完全に力を取り戻す以外に、現状を打破する方法はない。
『……』
だから、フィーア、頼むよ。
『……不本意だ。とても不本意だよ』
僕の最後のかけらをフィールに渡してくれ。
『……はぁ、いいの?たぶん君は死んじゃうよ?』
確かにそうだ。僕が以前やったように完全に分離させられるわけじゃない。それに、フィーアの話から考えると、僕の場合はおそらく、命を維持するためにもフィールのかけらが使われているのだろう。それを手放すということは自ら死を選ぶようなもの。
ここで二人して死ぬよりましでしょ。このままじゃ、フィールも僕以外の人間も死んでしまうんだから。
『……はぁ、分かった。やるよ。ほんとに気乗りしないけど』
そうして、僕はその決断を下すのだった。
〈sideフィール〉
突然のことだった。私の体に力があふれあがってきた。
「何が起こったんですか?」
分からないのですが、何か温かいような力の奔流が流れ込んできた。
そして、それと同時に声が聞こえてくる。
『あとは任せて』
そうして、私の意識は闇に呑まれる。
〈sideフィーア〉
「私は今、キレてるの。分かる?」
その化け物をにらみつけるように私は声を放つ。
「こんな、後味の悪い結末だって?ふざけるな」
本当にこいつが関わるとろくなことがない。前回も、私の仲間を殺し、今回は見守ってきた彼を失わなければならないなんて、本当にふざけてる。
「こんな私でも彼らを見てるのは好きだったんだよ?」
本来、成長した二人を見て私は成仏する。そんな結末をたどるはずだった。
「お前のせいで全てが崩れたんだ」
そう言って、私は手を天に振りかざす。
瞬間、空中に魔法陣が浮かび上がる。
「雷」
そう言って、手を振り下ろす。
途端に、辺りに閃光がほとばしる。それは、記憶にあるものよりも巨大な雷。
そして、視界が開ける。そこに災厄の姿はなく、災厄よりも圧倒的に大きなクレータだけが残った。
「災厄と恐れられたものがずいぶん、あっけないものだね」
私だって昔のままというわけじゃない。災厄程度、魔法一つで消し去ることだってできる。
「本当に腹が立つなぁ。こんなののために犠牲を出すことになるなんて」
勇者の力を完全に取り戻せなければ倒せなかったことは事実だ。しかし、取り戻してしまえばあっけないものだった。
そうして、私は振り返る。
そこには地面に横たわる少年の姿があった。自分に思わずため息をついてしまいそうになる。
そのまま目をそらしてしまいたい衝動に駆られるが、無理やりに抑え込み、彼のほうへと足を進める。
遺体をこんな場所に放置するわけにはいかない。せめて、父親に返すべきだろう。怒鳴られるかもしれない。だけど、それがベストだろう。
そんなことを考えているうちに、彼の目の前までたどり着く。
「あぁ……」
そんな声が口から漏れる。
私は彼の体を抱き上げようと、しゃがみ込む。
そして、それと同時に私の体は膝から崩れ落ちた。
「な、なに?」
突然に、私の体はしゃがみ込む形になってしまい、そんな状態になるとは思っていなかった私は動揺してしまう。
そして、私の目からほろりほろりと雫が落ち始めるのだった。
宵「次回、最終回」
イ「よしなに」