第67話 違和感
『……あぁ~。まあ、ばれるよね』
想像していたよりもあっさりとフィーアは認めた。
フィールから聞いた勇者像はフィールとはかけ離れている。だけど、フィーアだったと考えると一致する部分も多かった。
『いやさ?災厄がまた現れるのは想定していないわけですよ~。だから、君の頭の中で見せたというのにね』
まあ、それはついてなかったとしか……。
そりゃ、大昔にいた化け物がまた時代をさかのぼって現れるとは考えないか。
『いや~直接会って話すのは失敗だったかなぁ?』
いや、僕の実力が向上したのは事実だから。
フィーアが居なければ、僕は今よりもっと弱かっただろう。そう思えるくらいには成長できた実感がある。
『まあ、そういってもらえると助かるよ~』
つまり、フィーアは僕に由来する人格ではなくて、フィーアに由来する人格だったということだ。僕を助けるために、フィールの中から僕に干渉してきていたのだろう。
『……だからと言って、この状況を好転させられるわけじゃないからね?』
確かにそうか……。フィーアが勇者だからといって、あの化け物をどうにかできるわけじゃない。結局、勇者が完全に復活したわけじゃない。完全に力を取り戻した勇者でも多少苦戦した相手を倒すことは難しいだろう。
『あんな、自意識のないようなやつでも世界から恐れられたわけだからね』
化け物は今もなお無差別に閃光を繰り出し続けている。それらすべてが、直撃してしまえば、死んでしまいそうな威力を秘めている。
『死ぬってより蒸発しそうだよね……跡形もなく』
確かに、フィーアの仲間はあの閃光を受けて死んでしまっている。勇者パーティーの面々ですら油断すると殺されてしまうほどの威力を持っているのだ。
『私でも直撃もらうとただじゃすまなかっただろうね……』
とかく、あれに当たるとやばいってことかぁ。
『今のあの子でも即死しちゃうだろうね』
どうする?僕はこれだけの距離を保っていれば攻撃が当たることはない。
しかし、フィールは違う。あそこまでの接近戦をしていれば回避しきることは難しい。現に、着実にフィールの体には傷が増えている。
つまり、僕が何かできなければフィールは負けることになるだろう。フィーアという僕の切り札を切った後で、フィールの助けになることはないのか……。
『……君は死なないように頑張ってよ。私はあの子のほうに意識を向けるから』
フィーアはそう言って、僕の中から声が消える。
死なないように、か。僕だけが死なないことはおそらくできるだろう。だけど、それは現状維持にしか過ぎない。
このままだと、フィールは倒れて災厄がこの世界を蹂躙しつくすだけに終わる。そうなって、僕だけが生きてどうなるというのだろう。
いっそ、フィールと一緒に逃げ出せたらいいのにとも思うが、フィールはこんな場面で逃げるようなことはしないだろう。それに、僕としても災厄を放置したくない。
どうにかして、災厄はこの場で倒さなければならない。フィールから聞いた勇者が災厄を倒したときの話の中にヒントはないかと考えるが、一向に思い浮かばない。
勇者としての力を取り戻せていたなら、倒せるのだろうか。そんな考えが脳裏をよぎるが、フィールのかけらをこの場で探し始めるのは無謀だ。
たとえば、災厄が今もなお、破壊し続けているこのダンジョンのがれきの中から、どこかに消えたかけらが現れるような、そんな都合のいい展開が起こるはずもない。
でも、現状を打破する方法はフィールが勇者の力を取り戻すこと以外思いつかなくて……。
そもそも、フィールのかけらはどこに消えたんだ?なぜ、突然消えたんだ?
僕は、かつてこの街で生まれ育ったんだろ?だったら、何か、そんな出来事はなかったのか。物心ついた時にはすでにこのダンジョンは崩壊していた。ならば、フィールのかけらが持ち出されたのは僕が生まれるより前、もしくは僕が生まれた直後辺りだろう。
そのころに起こった大きな出来事はなかったのか?
そんな風に思考を続けるが一向に思い浮かぶ出来事はない。
僕の中にそんな都合のいい記憶があるわけじゃないのだろうか。それはそうだろう。これは、物語のようにご都合主義にはできちゃいない。
「――痛っ!」
そんな風に思考に意識を向けすぎていたからか、体に閃光がかすめる。
「マスター!」
フィールが視線をこちらに向けてそんな声を上げる。
「大丈夫」
かすめただけで大きな傷を受けたわけじゃない。
今更だけど、なんで僕をマスターって呼ぶんだろう。意識を取り戻して、初めて見たのが僕だからだろうか。
あれ?いや、そもそもフィールはどうして目覚めたんだ?僕がルーベのダンジョンで殺されかけたときに偶然目覚めて僕を助けた?
いや、それこそ都合がよすぎるだろう。
だったら、どうしてそんなタイミングでフィールは封印から解放された?
あの時の謎はほかにもある。僕が殺されかけたときに、なぜ死ななかったのか。シーザーらはフィールの姿に見覚えはなさそうだった。
てっきり、僕はフィールが僕を助けたと思っていたが、彼らがフィールのことを知らないとなると話は変わる。彼らはまだ息のある僕を置いて去ったということになってしまう。あの傷は今になって考えればポーション程度で治るはずがない。
つまり、あの時生き残ったのはフィール以外の何かが関与している。
だとすると……。
いや、そんなことが……。
確証があるわけじゃない。だけど、一つの考えが僕の中で生まれた。
イ「地の文が多い!」
宵「許して……」