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第66話 勇者

〈sideフィール〉


「痛っ!」


 やはり、躱しきることはできませんね……。


『閃光は文字通り光の速度で迫ってくるからね』


 そうだ。だから、予備動作と直感だけで回避を続ける。その能力に秀でているのがフィーアさんだが、単純に私の身体能力が足りていない。

 だから、攻撃を避けきれずに体に傷が増えていく。


『……それはそうだけどね。十分に君の身体能力もおかしいんだよ?』


 そうは言ってもですね……。


『勇者と比べちゃいけないよ~。君と勇者はまた別なんだから』


 とはいえ、勇者だったこともまた、事実です。


『とにかく、今君は勇者の力を取り戻しているわけじゃないからしょうがないよ』


 たしかに、そんなたらればを話している場合ではありませんね。


 とりあえず、この閃光をどうにかしないと災厄を倒す手段はないか……。

 正直に言ってしまえば、全く対応策が思い浮かばないわけですが。


「まあ、できる限りやるしかないですよね」


 そうして、私は勝ち目のない戦いに再度向き合うのだった。



〈sideルーク〉


 僕はその光景を見ていることしかできなかった。


「痛っ――」


 一方的だった。フィールの体には傷が増えていく一方で、化け物は無傷のまま。


 リンクを使えば状況は好転するだろうか。


 そんな考えが脳裏をよぎるが、即座に否定する。先ほどの戦いで使えたのはシーザーが僕に気づかないからだった。それに対し、この化け物は無差別に攻撃を繰り返している。

 つまり、僕の体に攻撃が当たる可能性が高い。

 僕が殺されてしまえばリンクは解除されてしまう。それでは何の意味もない。


 とりあえず、僕は僕の体を操作するとして、視界だけ共有しておくか……。客観的な視点があるだけでも戦いやすくはなるだろう。


 そう考え、リンクを発動させようとする。


『とっくにやってるよ!客観視点ありでこの状況』


 そう、フィーアから声がかかる。


 じゃあ、他に何かできることはないか?


 そう考えて、フィールのほうに視線を向けるが僕にできることが何一つ見つからない。

 至近距離じゃ、この閃光は避けられない。


『君はとりあえず、あの子が見える範囲で逃げ回ればいいから』


 それしかできることはないよな。というか、本来なら逃げ出したほうがいいはずだ。


『君はそれはしないでしょ?まあ、私としてもあの子のサポートがしにくくなるから離れてほしくはないんだけど』


 え?今もフィールのサポートを続けてるの?


『そうそう。だから君は気にせずに逃げてるだけで十二分に仕事してるの』


 そう言われても納得できるかと言えば別の話で……。


 結局、僕の力でフィールの手助けをできるようなことはないかと探す。


『単純な君の力といえば、強化魔法でしょ。それはかけてるんだから君は死なないことが一番の目標だよ』


 それはそうなんだけど……。


『そうそう。それが役割分担ってやつだよ。気を抜くのは言語道断だけども』


 フィーアは気を抜いてないのかな……。


 フィーアの言葉にそんなことを思ってしまいつつ、なんだかもやっとした感情を飲み込もうとする。


『いや、気は抜いてないよ?』


 フィーアが口にする訂正の言葉を聞き流す。


 こんな雑談をしている場合じゃない。フィーアにはそんな余裕があるのかもしれないけど、僕は集中していないと閃光に直撃してもおかしくないのだ。


 あれ?フィーアには余裕がある。


 その言葉に強い違和感を覚えた。フィーアは僕とは比較できないほどの実力者だ。そして、同時に僕の思い浮かべた最強の具現化ともいえるわけだが……。


 つまり、フィーアには僕以上のスペックは本来存在しないはずである。だというのに、フィーアは僕にはできないフィールのサポートをこなしている。今までのように僕の中だけで完結する話ならば納得できる。

 しかし、現在進行形でフィーアは僕にはできないことを成し遂げている。そんなことがあり得るのだろうか。


 今になって考えれば、フィーアとの特訓でも与えられた彼女の知識は僕にはないものだった。どうして、僕の中に僕にない知識があるのだろうか。


 そして、なによりも違和感となっているのは、目の前の化け物だった。


 ねえフィーア、あの化け物って何?


『あれ?あの子に聞いたら分かると思うけど……ちょいと待ってね』


 そうして、一瞬の間があったのちに。


『あれは災厄って呼ばれてた化け物らしいよ』


 との返答があった。


 フィーアは知ってたんじゃないの?


 そうだ。あの化け物を僕は一度見たことがあった。そして、その場所は僕の意識空間、フィーアとの訓練中に出した化け物と形容するしかない存在だったものだ。

 僕はそんな推測を口にする。


『……なんとなくだろうけど、分かっちゃった?』


 そもそも、僕という存在の中にフィーアがいるという状況がおかしいのだ。


 多重人格だとしたら、あまりにも僕という存在と乖離している。そもそも、憧れといった感情で別の人格が生まれるなんてことがあり得るのだろうか。


『確かにね、多重人格っていうのは基本的に主人格を守るために生まれる。危険にさらされていない君の環境で私という人格が生まれるとは考えずらい』


 そして、出てくるタイミングもおかしいでしょ?出てきたタイミングはフィールとの旅を続ける途中だ。なぜ、そんなタイミングで現れたのか。


『私という存在が必要とされていない場面で初めて突然現れた。確かにおかしな話だね』


 そして、フィールが記憶を取り戻す前にフィーアは災厄の存在、容姿を知っていた。

 だから、あんな化け物を僕の意識空間に作ることができたのだ。


『それはわからないよ?君が以前に勇者の物語を聞いた時に容姿の記載があったのかもしれない。それを空想した可能性もあるでしょ?』


 確かに、化け物がいたとは書いてあった。だけど、全く一致する容姿を空想することなんて不可能だ。


『まあ、流石に偶然の一致ととらえることはできないかぁ』


 でしょ?


 そして、そのことから考えられるのは……。


 フィーア、君が勇者だったんでしょ?


宵「割と分かってた人はいるんじゃないかな?」

イ「不自然さはかなりあったからね」

宵「……自然に登場させる技量がなかったんです」


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