第64話 決着
「形勢逆転、だと?」
「そうでしょう?私に攻撃を当てられないまま、傷が増えるばかりじゃないですか」
『もう、気にしても仕方ないよね?』
まあ、動きが精密性を欠く分にはいいからね。
『そうなんだけどさー、キャラに合ってないというか……』
まあ、元の人格はだいぶ狂ってたらしいし、近づいてるんじゃない?
『えぇー、心外なんだけど……』
「そうかそうか、だったら我も本気になろうか」
僕らがそんな雑談をしていると、シーザーがそんな声を発した。
『本気、ねぇ~?』
つまり、ここからが本番ってことかな?
『どーだか?あれにそこまでの力はないでしょうよ』
まあ、はったりにせよ真実にせよ気を付けたほうがいいでしょ。
『それはそうだねー。まあ何かの間違いで強化されるかもしれないし』
フィーアは余裕だなぁー。
そんなことを思っていると、シーザーが動く。一瞬にして、僕の視界の目の前に現れる。
『はぁ……。やっぱり』
確かに、先ほどよりも動きは速い。だけど、単調だ。
「この程度の動きなら見切れますよ」
僕らは、その攻撃を簡単に回避する。
『そんで、そんな油断してるなら……』
フィーアは、手元に剣を取り出して。
『そういうことするなら言ってほしいんですけど』
フィールもそれに合わせてもう片方の手に剣を取り出す。
『いいでしょ?合わせられるんだから』
ザッと音があった後に、地面に手首が転がる。
「――っ、がぁ」
シーザーは手首から先を失った腕を押さえてうずくまる。
『ふーん。全く痛みに耐性ないじゃん』
『ですね。手首が落ちたくらいであそこまでもだえるとは』
いやいやいや、手首が落ちる状況なんてそうそうないからね!
『だとしても、あそこまで余裕をなくしてたら駄目ですよ』
そんなもんなのかね……。
分かるよ。戦いの中に痛みに悶えるような余裕はないってことは。でも、手を落とされたんだよ?
『まあ、マスターの言ってることも分かりますが、あそこまでの力がありながら、悶えてるんじゃ、駄目ですよ』
つまり?
『手を落とされるくらいあの実力になる前に経験してるのが普通なんですよ。要は、借り物の力で驕るなってことです』
『君が言うと説得力ないねぇ~』
『まあ、確かに私も経験があるわけではないんですけど……』
確かに、勇者時代と今のフィールはつながってないんだっけ?
『そうなんですよ。勇者だった時には何度か落としたんですけど、全く自分のことのようには感じられてはないんです』
『あれは痛いからね~。最初落としたらあんな感じで悶絶するよね~』
フィーアはなんで知ってるんだ……。
『自分で落としたから?』
……マジで言ってますか?
『いや?冗談』
さすがに、自傷癖があるってことはないか。
『君は一体私にどんなイメージを……』
気にしない気にしない。
『君、やっぱり私の扱い雑じゃないかな?……ほら、あの子が拗ねちゃってる』
『拗ねてはいないですよ』
『……そこは拗ねてるって言ってほしかったなぁ』
『そういうのは私に求めないでください』
『じゃあいないじゃん!乗ってくれる人!』
確かにフィールのキャラとは合わないよな……。
『お、君も敵になるのか?』
はじめから味方じゃないんだけど。
『と、そんなこと言っていたら起き上がりましたよ』
『お?しぶといねぇ~』
全然緊張感がないなぁ~。
『あれ相手に緊張感なんて持たなくていいよ~。バカやりながら戦っていい相手さ』
さっきまで、致命的な状況だったんだけどね。
「流石の再生力ですね」
「そうだろう?これが我の力だ」
「龍脈の力でしょう?あなたの力ではありませんよ」
さっき追撃しておいたほうがよかったんじゃ?
『いやいや、手負いの獣は恐ろしいって言うでしょ。だったら、再生させてから削っていったほうがいいよ』
『あの力で無差別に暴れられるとかなり面倒ですからね』
な、なるほど?
「それも我の力だ」
『いや~、力に酔ってるって怖いね。戦力差も分かんなくなるんだからさ』
まあ、力では勝ってるからね。まだ、自分が上だと思いたいんでしょ。
「そうですか、だったらこれくらいは……」
そう言って、今度はフィールのほうからシーザーに突撃する。
『よしきた!やってやろうじゃないか!』
「は?」
僕らは一瞬にしてシーザーの目の前まで接近する。その動きは、シーザーには追うこともできず、突然目の前にフィールが現れたように感じるだろう。
『懐かしいでしょ?』
そう。これは、僕とフィーアの訓練の中でフィーアが見せた視界を切る技術。身体能力で勝っているわけではなくても相手からは突然消えたように見える。
フィールは、両手に剣を握りそれを振り回す。
『じゃあ、片手は任せるよ~』
フィールとフィーアは剣を振るい、僕はシーザーの動きに合わせて体を動かす。
そして、僕らはあっさりとシーザーの背後をとることに成功する。
『打ち取ったり!ってね』
フィーアのそんな声とともに、剣は振るわれる。
クロスするように振るわれたその剣は、シーザーの首に突き刺さり、そして切断する。
そうして、戦いは決着するのだった。
宵「なんだろう、とても王様が馬鹿な人に見えてきた」
イ「それは君の能力不足だ」