第63話 形勢逆転
そして、そして、そして、僕は戻ってきた。
『さっきまでの足取りが嘘のようだね』
そんなこと言わないでよ……。
『まったく、よい行動ってわけじゃないんだけどね』
それでも、ここで逃げてたらフィールが助かる可能性は低くなるでしょ。
『まあ、君と私、主に私がいたら、あの子が負ける可能性は低くなるけどね』
主にフィーアって……。
『事実だもーん。まだまだ君は私には及ばないんだよ』
まあ、いいけども……。じゃあ、僕がリンクを発動して、フィーアが僕の体を守るってことでいい?
『うーん。いや君はあの子に強化魔法と周辺の状況を読むことに集中して。体の操作は私とあの子でやる』
体の操作って……フィーアにもそんなことができたの?
『まあ、私は最強なので』
理由になっていないでしょ……。
そんな感じの話をしていると、フィールの姿がようやく見えてきた。
『ぎりぎり、みたいだね』
フィーアのいう通り、かなりぎりぎりだったようで、フィールの姿はすでにボロボロになっていて、なんとかシーザーの攻撃を回避するので精いっぱいといった感じだ。
「……っ!」
そんな状態でもフィールは僕の存在に気づいたようで、一瞬僕のほうに視線を向けて表情を曇らせる。
『そりゃ、あの子からしたら逃げてほしいだろうね~』
まあ、そうなんだろうけど……。
『私は、君を応援するよ。何とかできる可能性も十二分にあるし、あの子には死んでほしくない』
じゃあ、やろうか。
僕はそうフィーアに意思を送る。バッチこい!と威勢の良い声が返ってきて、僕はフィールに意識をつなげる。
『なにやってるんですか!』
つなげた途端、そんなフィールの意思が伝わってきた。
『私だけで何とかするので、マスターは早く……』
『それでフィールは勝てるの?』
『意地でも何とかします。だから』
『無理でしょ?ルーク君ならともかく、私は騙せないよ~』
『え?誰ですか?』
『話に出たことあるでしょ?フィーアだよ~』
あ、マスターの空想じゃなかったんだ、という意識が飛んできたような気がするが、まあそれは無視する。
気にしちゃだめだ。うん。
『ともかく、マスターが居ても変わらないんです。逃げてください』
『だとしても、フィールを見捨てることはできないよ』
『……』
『ねえ、お二人さん?いま、戦闘中だからやめよう?そんな雰囲気になるのは』
『そ、そうですね。早く逃げ……』
『あーもう!だったら少し試してからでもいいでしょ』
『……はぁ、分かりました。駄目そうだったらすぐ逃げてくださいね』
不承不承ながらもフィールは認めてくれた。僕が引き下がらないと思ったからだろうけどね。
『じゃあ、目の前のことに集中しようか』
『了解』
そうして、僕は意識を目の前に向け、体に強化魔法を施す。
『やはり、これはすごいですね』
『よーし、私たちで合わせるよ~』
僕の視界には、攻撃を繰り出そうとしているシーザーの姿をとらえることができた。
『ぎりぎりだけど、見える!』
『ここ!』
その攻撃を、フィーアはいなし、
『これならいけます』
フィールが、剣を振るいシーザーに命中させる。
「急に動きがよくなったな?」
「慣れてきたんですよ」
そう言って、フィールは相手をあおる。会話はフィール担当なので、これは彼女の口から出た言葉だ。
『うわ~煽りスキルまで得たんだ~』
フィーアは暢気にそんなことを言っている。僕もフィールがそんなことを言えるようになっていることに少し驚いていた。
『煽ってるつもりはないんですが……』
『え?天然であんなことを口にしてたの?』
思わず、僕はそんなことを思ってしまった。
『天然というか、ごまかしただけですよ。マスターの存在がばれると対応が難しくなるので』
『た、確かに、そうなんだけどさ』
僕の体が狙われると一気に状況は悪化する。いざとなればフィーアが僕の体を担当するらしいから十分だとは思うけど。
『というか、今与えた傷もう回復してるんですけど』
『再生能力もあるのか……』
『そうなんですよ。それがなければとっくに倒してます』
フィールってすごいなぁ。そんな感想しか浮かばなかった。
『いや、君でもあの子くらいの身体能力があればできると思うよ?』
フィーアからそんな突っ込みが入る。
『そう、なのかなぁ?』
『『そう(です)』』
『そ、そうなんだ』
結果、僕は押し切られてしまった。わけです。
『次来るよ!』
『了解』
僕はシーザーの動きに意識を集中させる。
それに合わせてフィーアが躱し、フィールが攻撃する。
「これで、形勢逆転ですかね」
『これ?わざとやってるわけじゃないの?』
そんな宣言をしたフィールにフィーアが突っ込みを入れるのだった。
宵「前の戦いのときから思ってたこと、フィールめっちゃ煽るじゃん」
イ「当人はそのつもりないはずなんだけどね」