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第50話 仲間

 案の定というべきか、旅の仲間二人は次の街で離脱した。


 移動しただけだよ!?ねえ!?


 いや、本当に何の戦いもなく馬車で移動しただけなのに離脱していった。


 うーむ。野営がダメだったのかなぁ。ならもう、どうしようもねぇや。空間を裂いて、快適空間を作れなくもないんだけど、流石に馬車の御者に見せるわけにはいかないからなぁ。明らかに、私が勇者になってから得た異常な能力だ。


 原理くらいは分かるんだけどね。まあ一般的に知られているわけでもないし、見られたらやばいやつ認定される恐れもある。


 勇者に選ばれたからといって、容姿が勇者っぽくなるわけでも、全人類に周知されるわけでもない。家に入ってたんすを開けたり、ツボを割ったりしようものならお尋ね者一直線だ。……いや、勇者って知られててもやっちゃいけないだろ、それは。


 なぜ浮かんできたのか分からない、犯罪行為に突っ込みを入れて思考を戻す。


 つまり、私はこれから一人旅になるということだ。……いやいや、仲間は必要でしょ。か弱き少女一人旅は何に襲われるかわかったもんじゃない。か弱くないという言葉は聞きません。


 さて、どうするか。仲間、仲間かぁ。……やっぱり、酒場?


 いやいやいや、そこにいるのは飲んだくれくらいだよ!仲間の職業、飲んだくれですはシャレにならない。もっとまともなところに行こうぜ。


 そうなるとやっぱり、冒険者ギルドだろうな。冒険者ギルドと言えば、魔物を討伐し、お金を稼ぐ、猛者が集う場所。勇者パーティーのメンバースカウトの行先にはベストというべきだろう。


 そうして、私は冒険者ギルドに向かった。


「災厄を倒す旅?君みたいな少女が?」


 案の定というか、なんというか、私の容姿が災いして全く信用してもらえない。ここで、この人たちをぶちのめして、実力証明してもいいわけだけど……。いやいや、勇者としてというか人間としてダメでしょ、それは。


 つまり、仲間を作ることはできない?


「そもそも、冒険者ギルドは一つの働く場だ。この街で暮らしていくためにいる人がほとんどなんだ」


「そうなんですね。わかりました」


 なるほどなるほど。急に世界を救う旅に出ましょうといったところで、そんなものに付き合う人間はいない。ってことだろう。


「はぁ……どうしたもんかなぁ?」


 仲間無しで旅をする。うーん。できそうな気がする。……悲しいことにね。

 とはいえ、災厄の実力っていうのは不明だ。最終決戦で私単騎で挑むとなると、少々不安が残る。


「……はっ!」


 そこまで考えて気づく。


「私って相当強いよね?私にかなうような相手はいないのでは?」


 いつも通りの調子で私はつぶやく。


「この極めて最強たるフィールちゃんに勝てるやつっていないのでは?」


 極めて最強とは何だろうという声が聞こえてきそうだが、極めて最強とは極めて最強なのです。


「うーむ」


 しかし、勇者一人で災厄を倒すっていうのも味気ない。いやまあ、現実に味気を求めるなって意見もわかる。しかしそれは、私の精神衛生上よろしくない。


 そうか、あんな奴らでも私の精神を安定させるという面では役に立っていたんだろうな。いやまあ、移動だけでギブアップしてしまうような人間じゃあ、この先ついていけないだろうけども。


「うむ。つまり、最低限ついていける人間を探すべきってことか」


 主に私の精神安定のために。


「じゃあ、それっぽい人を探しに行くかぁ……」


 気が付けば、私はか弱い女の子ということを忘れ、勇者としての仲間探しに出るのだった。



「俺らはそんな理由で集められたわけか?」


 そんなことをつぶやく戦士の人、名前はレイガス。


「まあ、あなた一人で十分でしょうからねー」


 ジトっとした目で見つめてくる女性。テレシア。僧侶で回復役を務めている女性だ。


「そう言われてもさぁ……」


 私は勇者として力を与えられた。それこそ、人間の枠を超えた規格外と言えるだろう。


「私だってさみしさを感じるんだよ!」


 盛大な叫び声があたりを木霊した。


「耳が壊れる……」


 そう小声でつぶやく少女。私よりも小柄で年下だろう。しかし、世界有数の魔術師でもある。名前はないと言っていたので、ナナシと呼ぶことにしている。かわいそうって言われても、本人からそう呼んでと言われたことなので、まあこれでいいのだろう。


「だってよ?勇者様?」


 私ににやにやとした目を向けてくるレイガス。殴り飛ばそうかな。


「ふぅーステイステイ」


 イラっとした気持ちを落ち着ける。


「やっぱり、勇者様って変わってるよね」


 テレシアさん?それはどういう意味ですかね?


「……妖怪皮かぶり」


 なぜ妖怪?


「いやまあ、勇者モードもあるわけだけどさー」


 勇者モード、淑女モードはこの勇者活動の中で役に立った。めちゃくちゃ役に立った。


「……まあ、あんたの品行方正な姿なんて長く続くわけもないが」


「案外あっさりと化けの皮が剥がれたからねー」


「そんな目を向けるなー。私は勇者様だぞー」


「……」


「おい!ナナシもそんな目を向けるな!」


 先ほどまで、うつろうつろと舟をこいでいたナナシもひどい目を私に向けている。よいこは寝てなー。


「幼女じゃ、ない!」


 突然、ナナシは叫び、私に向かって一斉に魔法が飛来する。


「ちょっ!待って!」


 そもそも、私は口に出していただろうか。いや、そもそもとして幼女とまでは思っていない。


「全部私が教えた魔法でしょ!なんで私に向けるのさ!師匠に向けるものではないでしょ!」


「おー、名物喧嘩ですなぁ」


「そこ!感嘆の声を上げてないで、ナナシを止めなさい!」


 私は飛来する魔法を相殺しながら叫ぶ。確かに、私は勇者と呼ばれるだけあって、魔法の実力は相当高い。しかし、魔法という面だけではナナシも同レベルといえる。天性の才能だけで勇者に食らいついている少女。それがナナシなのだ。


「……きゅう」


 しばらくして、そんな声を上げて地面に倒れこむナナシ。まあ、魔力量だけで言えば圧倒的に私が上なので、こういう打ち合いに発展すれば持久力の問題で私に軍配が上がる。


「いいの何発かもらってたなぁ」


「割と本気だったんだけどね」


 うぅ……割と痛い。


「しかしまあ、ナナシの謎の読心能力は何なのやら」


「幼女とまで思っていないんだけどねぇ」


 勇者パーティー七不思議のひとつである。


宵「なんか、ナナシさん強くないですか?」

イ「ほんとに想定していない動きしてるなぁ」

宵「おかげで割と長くなっちゃった」

イ「3000文字いけばいいのに」

宵「それくらいにしてもいいのかもしれないけど……今以上に大変になりそう」

イ「それが君の仕事だろうが」


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