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第46話 感受性

〈sideルーク〉


 あれから、僕らは女性冒険者を連れて地上に戻った。道中、彼女の相方を拾ったわけだが……よく無事だったな。

 フィールが圧倒していたといっても、彼女の戦闘能力は規格外としか言えなかった。そんな彼女を相手して命があるということは奇跡……いや、彼女のほうが彼の命を奪えなかったのかもしれないな。

 今回の被害者はおそらく、女性冒険者にフィールの体を埋め込んだ相手、なのだろうけど、まあ、彼女を制御できずに殺されているのだろう。

 ともかく、この街ではハッピーエンドを迎えられたといってもいいだろう。そして、僕はというと


「……では、聞かせてもらいますよ」


 えっと、僕のほうはフィールに詰められています。


「……何を話せばいいかな?」


 まあ、あの技を身に着けたことについて詰められているんだろうけど。


「別にそんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。責めようとは思ってないので」


「う、うん」


 フィールも怒るようなことはしないだろうけど……少し怖い。


「単純に、あの技をどうやって身に着けたのかを聞きたいんです」


「どうやって?」


 なぜできるのかではないのか……。フィールもフィーアも真似できないらしいから、そこを聞かれるのかと思っていた僕は少し驚いてしまう。


「できることも謎ではあるんですけど、それはマスターの個性としておきます。ただ、だとしても、ぶっつけ本番でできるような技ではないことも確かです」


 確かに、あの技の訓練は夢の中で行っていた。こっちでやったことなんてないから、疑問に持たれて当然か……。

 それはともかくとして、できることが個性って意味が分からないな。

 とりあえず、フィーアとあの空間について話しておけばいいのだろうか。

 そう考えて、僕はフィールに話す。


「……少し、というかかなり、理解できない話なんですけど」


「それが真実だから」


「つまり、フィーアという私の姿をした人に夢の中で教えてもらったと」


「こんなことができるようになりたいと練習を始めたのは僕だけどね」


 練習を始めた理由は、フォームの街でフィールの体を取り込んだ冒険者を殺すことしかできなかったからだ。


「……フィーアという人について私は知りません。ただ、マスターの人格であるというのには違和感があります」


 それもそうだろうな……。僕の最強像として想像された存在、とそう言うにはあまりにも僕以上の存在すぎる。


「とはいえ、害意があるというわけでもなさそうですが」


 僕に敵対しているならそもそも僕の特訓に付き合ったりはしないもんな。彼女に悪意があったとは思えない。


「……それに、マスターは彼女を疑ってはいないのでしょう?なら、大丈夫だと思います」


「ここで、そんな信頼されても」


 僕の人を見る目なんて濁りきっているようなものだと思うのだけど。だから、前のパーティーに所属していたわけだし。


「……気づいていたわけではないんですね」


「何に?」


「感受性、と言っていいのか分かりませんが、マスターはそれが異常に高いのです」


「感受性?」


「そうです。私とマスターの心をつなぐとか、今回のように、相手の精神の境を見抜くとか、そんな技ができるのはマスターの感受性が異常だからだと思います」


「それは感受性なの?」


「知りません」


「……」


「そう表現するしか思いつかなかったんですよ。そもそも、そんな能力がある人間なんておそらく想定されてないでしょうから」


 まあ、フィーアもフィールも驚くような異常さだったのだろう。確かに、一瞬の遅れもなくフィールに合わせるだったり、精神の隙間を切裂くだったりと意味の分からないようなことをやってきていた。それは人間という枠を超えた行為と言っても、過言じゃないだろう。

 そこまで考えて気づく。


「想定されていないって、誰に?」


 人間の体が想定していないという言い方ならば分かる。だが、そんな人間が想定されていないという言い方が妙に引っかかった。


「誰がですか……。多分、神様か何かじゃないですか?私が、人間という枠を超えて作られたように、マスターもまた、人間という枠組みを超えている」


「適当な……」


「いわゆる神様は存在しますよ。いま、どう認識されているのかは知らないのですが」


「今も、信仰はされてるよ。まあ、神話内の勇者のほうが持ち上げられているけど」


「……勇者ですか?私の知識内にはそんな存在はありませんが……」


「フィールが生きていたころはまだ、考えられていなかったんだろうね」


 神話なんて、大概は創作にすぎない。宗教が崩壊させてきた歴史はいくつか知っているつもりだ。大体は金もうけの手段として使われる。一定数、本気で信じている人もいるのだろうけど。


「勇者についてはそうなんでしょうね。救世主が嫌いな人間はいないでしょうから」


 確かに、救世主を嫌いだという人はいないだろうね。だって、僕もまた、そうなのだから。

 そんなことをフィールを見ながら思うのだった。


宵「勇者って何だろうね」

イ「勇気ある人?」

宵「なろうの中で」

イ「ゲームの職業的なの」

宵「……確かに」


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