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第37話 平和になった街

〈sideルーク〉


「なんだか街の様子が明るくなってますね」


「確かに」


 あれから、宿屋を出て僕らはのんびりと街の中を歩いていた。

 訪れた時には、領主の失踪で街が成り立たなくなり、ほとんどの市民は暗い雰囲気を纏っていた。


「そりゃな、兄ちゃんたち」


 そんな風に話していると、僕らが街を訪れたときに話しかけてきた男が声をかけてきた。もともと、この男性は道行く人に声をかけるような性格だったんだろうな⋯⋯。


「お国が領主の代行を派遣してくれたからだ」


 まあ、領主の失踪が続いていたら国も対策はするか。


「領主本人は見つかったんですか?」


「いんや、まだ失踪扱いだな」


 まあ、やっぱりというべきか、領主本人はいまだ行方知れずか⋯⋯。

 推測ではあるんだが、ダンジョンでフィールの力を持っていた貴族の男が領主だったのだろう。力を取り込むために失踪したという形だろうか。⋯⋯僕らはそんな男を殺してしまったわけだけど。


「代行様が来てから、どんどんと不正が見つかったらしいし、帰ってこないほうがいいんだがな」


「そうですか⋯⋯」


 不正か⋯⋯。そういうルートからフィールの力を自身に取り込むための研究でもしていたのだろうか?フィールの力を取り込んでも自我を保っていたのはそういう研究の結果としてできるようになっていたのかもしれない。


「まあ、そのうち街もさらに活気を取り戻すってもんよ!」


「僕からはこんなことしか言えませんが、頑張ってくださいね」


 ここから、領主の失踪で滞っていた仕事を一気にこなさないといけないのだろう。一度傾いている状態から復興するとなるとかなり大変だろうな。


「おうよ!これから近くに寄る機会があったら是非見に来てくれよ」


「分かりました。ぜひお邪魔しますね」


 僕らの荷物からもう街を出るつもりだと気づいたのだろう。男はそう言って去っていった。


「明るい人でしたね」


 男が去って行ったあとを見ながらフィールが言った。


「前は退屈しのぎかと思ったけど、もともとあんな人なんだろうね」


 おしゃべり好きな男の人だったのだろう。


「そういえば、貴族の男が暴走しなかった理由って分かる?」


 さっきの男と話したときに思い出したが、貴族の男はフィールの力を取り込んでいたのに暴走しなかった。研究した結果だとは思うが、フィールなら何か詳しいことも分かるかもしれない。


「そうですね⋯⋯。おそらくですが、私の力をかなり前から取り込んでいたのではと」


「それで暴走しないの?」


「赤子の頃に私の力を取り込めば、ある程度は体が適応すると思います」


 子供の適応力ってやつか⋯⋯。それで暴走しなくなるって、思っていた以上に子供の適応能力は高いんだな。


「幼少期でも、確率は下がりますが不可能というほどではないかと」


「だったら、大人の体では取り込むことは不可能ってこと?」


 男が研究して取り込める方法を探したのかと思ったがそうではないのか。


「はい。暴走せずに取り込むことは不可能です」


 大人の体で取り込むことは不可能か⋯⋯。以前の女性冒険者のようになってしまうのだろう。


「ってことは、ここのダンジョンはフィールの力で保たれているわけではないってこと?」


 フィール曰く、フィールの力をくみ上げて、ダンジョンは魔物や宝を作っているらしい。もし、あの男が前からフィールの力を取り込んでいたのなら、ダンジョンはすでにそれらを作る力は絶たれていることになる。


「でしょうね。すでに龍脈につながっているかと」


「フィール以外が取り込んでもダンジョンは崩壊しないんだね」


 だったら、すでに崩壊しているダンジョンは一体何なんだろう?

 僕は、フィール以外が無理やりその力を絶ったからダンジョンは力を失ったとばかり思っていた。しかし、このダンジョンが崩壊していないってことは、誰かがフィールの力を絶っただけではないということ。


「ダンジョンはどこからでもエネルギーを取り込むことができるので、意図しない限りは崩壊なんてしませんよ」


 だったら、崩壊したダンジョンは意図的に誰かが壊したダンジョンということだろうか。


「その崩壊が偶然起こる可能性はある?」


「先ほど言ったように、意図しない限りはありません」


 偶然に崩壊は起こりえない。ならそれを狙っていた人間が過去にいたのか⋯⋯。フィールの体を集めるなら、その人間と関わることもあるのだろうか。そして、そこにあった、フィールの体はどこに消えたのだろうか。



 その日のうちに僕らはルーカの街を出て、次の街レグルに向かっていた。

 そうして、夜。夕食も食べ、僕らは眠りについた。


「やあ」


 眠りに落ちたと思った瞬間、フィーアがそう声をかけてきた。


「心臓に悪いからやめてほしいんだけど」


「あー、確かに君からすれば驚くか」


 いや、本当に視界が急に変わったと思えば声が聞こえてくるんだから驚く。


「それは次から気を付けてみるよ」


「⋯⋯にしてもずっとここにいたわけ?」


「そうだよー。君が起きている間はここでぼーっとしておくだけ」


「暇でしょ」


「暇だよ」


 こんな何もない空間でぼーっとしておくだけって相当にしんどそうだなぁ。


「ここで生まれたんだからしんどいも何もないよ」


「暇なだけと」


「そ」


 多分、価値観が違うんだろうなぁ。


「起きているときの僕の感覚は共有されてるんじゃない?」


「共有されているからと言って、暇じゃないわけないでしょ」


 まあ、僕の一日に密着したところで何か面白いことがあるわけもないか。


「あ、そういえば、君が言ってたダンジョンの崩壊のことだけどさ、あれは後回しでいいよ」


「なんで?」


 レグルの街に向かっていた僕らだけど、崩壊したダンジョンが気になるから、道を変えてそっちから先に行こうかと考えていた。まあ、まだどちらにするかは決まっていなかったけど。


「⋯⋯今の君たちが行ったところでどうにもならないから」


「僕はともかく、フィールもいて?」


「そう」


 フィールありでもどうにもならない状態なのか。ダンジョンの崩壊を目的にしていた相手がいるのだろうか?


「あ、強い相手がいるとかじゃないよ?今から行くよりもほかの体を集めてから行ったほうがいいってだけ。それに、私は君の知識以上のことは知らないんだからどんな人間が崩壊したダンジョンにいるのかは分からないよ?」


 僕がそんなことを考えているとフィーアから訂正が入る。だったら、行くこと自体に悪いことはないはず。


「いやまあ、行ってもいいとは思うけど、効率的には悪いと思うんだよね」


 効率か⋯⋯。確かに距離のことを考えれば、崩壊したダンジョンは最後に回したほうがいい。


「そうそう。まあ、私からも少し推測していることがあるから話しておきたいんだよね」


「推測していること?」


「そう。君の記憶からあの子について考えたことがあるからね。まあ推測だから確証はないんだけど」


 そう言って、フィーアは自分の推測を話し始めるのだった。


イ「フィーアの記憶の共有ってプライベート的には大丈夫なの?」

宵「見ようと思ったこと以外は見えなくできるんじゃない?」

イ「見ようと思えば?」

宵「なんでも見れるよ」


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