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第35話 化け物

更新が遅れてしまい、申し訳ありません

〈sideルーク〉


「目が覚めましたか?」


 僕が目を開けると目の前にフィールの姿があった。⋯⋯さっきもこんな光景はあった気がするな。


「うん。状況ってどうなってるの?」


 あの男を倒して、フィールが腕を取り込んだところまでは覚えている。視界にはごつごつした岩肌の壁しかないのでダンジョンの中だろう。


「マスターが倒れてからは、端に移動させただけです」


 僕は地面に直に寝かされていたようだ。頭には少し高めの岩を置いて枕代わりになっているらしい。


「あれからどれくらいたったの?」


「かれこれ数時間は経ってますね」


「⋯⋯その時間フィールは待ってたの?」


「はい」


 ⋯⋯なんだか少し申し訳なくなってきた。数時間、寝ている僕のそばで周囲の警戒をし続けるって、相当神経が必要そうだけど。


「ごめんね」


「まあ、結界で覆って待っているだけですから」


 そう言えば、結界とか作ってたなぁ⋯⋯。だったら、警戒の必要はなかったのか。でも、一人で僕が起きるまでずっと待っているのはさすがに暇だったろう。


「それなら、起こしてくれてもよかったのに」


「三十分くらい待ってから起こそうとしましたよ」


 ため息でも吐きたいようにフィールはそう言った。

 起こされても起きなかったのか、僕。リンクを初めて使った負担とかで倒れてしまっていたのだろうか。原因はわからないが、フィールにはかなり迷惑かけたな⋯⋯。


「気にすることでもないですよ。年単位で動けなかった時期もあったので、暇には慣れています」


 まあ、ダンジョンに封印された時間は数時間規模ではないんだろうけど⋯⋯。


「それでも、迷惑をかけたからさ⋯⋯」


「分かりました。では、次から気を付けてくださいということで」


 フィールは無理やり話を終わらせる。


「そろそろ、街のほうに戻りましょうか。宿でゆっくり休んだほうがいいでしょう」


「分かった。帰ろうか」


 そう言って、僕らは街に戻るのだった。



「やあ」


 僕らは街に戻り、宿屋で休むことにしたのだが⋯⋯。疲れがたまっていたのか、眠るまでは良かった。しかし、眠ったとたんに、またこの場所に来ていたのだ。毎夜会うことになるとは言っていたけど、実際、ただの夢だったのではと半信半疑だったからな。


「君はただの夢の登場人物ってわけではないんだね」


「そうだよー。まあ、連続で同じ夢を見てるだけかもしれないけど」


「それを君が言う?」


「私が言うのです!」


 フィーアはドヤ顔で言った。


「まあ、どうだっていいじゃない。君にとっては寝ている間も特訓できるいい機会だよ」


 まあ、確かにそれもそうだった。実際、ダンジョン内で気絶している間だけでも相当な特訓になった。意識が戻っても、その時の感覚は残っていたし、続けていけば間違いなく強くなれるだろう。


「そういえば、世界最強って言っていたけどフィールより強いの?」


 以前、フィーアは世界最強と名乗っていた。実際に戦った感覚としては、確かに強い。


「そうだね。少なくとも今のあの子よりは強いつもりだよ」


「そうなんだ」


 フィールより強いか⋯⋯。どちらも、僕からすれば強すぎるという印象しかない。しかし、前に戦った感覚としては、フィールにあった理不尽さがフィーアからは感じられなかった。


「それはそうだよ。私も力じゃあの子には届かない。ただ、そのくらいの身体能力の差なら技術で埋められる」


「フィーアたちの世界でも技術どうこうが関係するんだ⋯⋯」


「それはそうだよー。まあ、大概は力だけでねじ伏せることはできるけどね」


 近い程度の身体能力がないと技術はねじ伏せられると⋯⋯。


「そうそう。理解できないものには対策のしようがないからね。どんな技術があろうと意味はない」


「つまり、理解できる相手なら勝機はあると」


「そーなるね。どんな強大な相手でも相手の動きが見えるとか、状況を理解できるならばどうにかなる」


「経験でもしたように語るね」


「経験はまあ、してないねー。私はここにいるだけだし、そもそも、私が最強だったからね」


 フィールを除くと技術勝負になりそうな相手がいないと。


「まあ、世間一般で強いって言われている奴も、案外ねじ伏せられたし」


 誰のことを指しているのかは分からないけど、たぶん、僕にとっては相手取ることはできないような相手なんだろうな⋯⋯。


「そうだね。今の君じゃさすがに即死かなぁ」


「即死⋯⋯」


 多少、フィールの動きを読み取れるようにはなってきた今でも即死するのか⋯⋯。


「多分、あの子と一緒に遭遇しても危ないんじゃない?」


 フィールありきでも勝てないのか⋯⋯。


「あのリンクっていうの使えば可能性はあるかも程度?」


 リンクか⋯⋯。あの技はとっさに思いついてやったけど、失敗してたら大惨事になりかねなかったよな。できないとは思っていなかったけど。


「あればっかりは私もあの子も再現するのは無理だろうからね」


 そう言ってフィーアは苦笑する。そんなに難しい技術なのだろうか。


「基本、君からあの子にしかできない技だと思ったほうがいいよ」


 僕しか使えないのは分かったけど、フィール以外に使えない⋯⋯か。実際に、昔の仲間に使うことを想像してみたが、全くできるという未来は見えなかった。フィールに使うときはむしろ、できると確信があったのにもかかわらず。

 あいつらとフィールの違いか⋯⋯。なんだろう。信頼度としてはフィールのほうが上だけど、あいつらとのほうが長く付き合ってきていて、動きの特徴などはフィールよりもつかみやすいはずだ。


「君とあの子の相性がいいっていうのが一番の理由かな?あ、体の相性とかじゃないよ?」


「言わなくても分かってるよ」


 フィールは確かに美少女だけど、そういうことを想像したりするほど深い関係ではない。⋯⋯きっと。


「おお、純愛ってやつ?」


「どうしてそっちに持っていきたがるの?」


 心が読まれるっていうのはこういうタイミングでは困るな。


「女の子は元来、恋バナが好きなんですー」


「はぁ⋯⋯」


 やり取りが面倒になってきて僕はため息をつく。


「お?ため息なんてつくのか?なら、こうしてやるー」


 フィーアがそう声を出した途端、空間が揺れた。

 そして⋯⋯。そして、僕の目の前には巨大な化け物がいた。僕の知っているどの動物とも結びつかないようなシルエットに、鉄すら切り裂きそうな鋭さの爪、そして、こちらをぎょろっと見つめる無数の目。化け物としか形容できないような姿だった。

 ⋯⋯あのさ、報復するために出すような化け物じゃないよね?これ。


イ「恋バナからの温度差よ」

宵「なんでもありの空間ですから」

イ・宵「ご冥福をお祈りいたします」


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