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第32話 僕の意志

〈sideルーク〉


 その巨大な機械は、その大きな体から想像される緩慢な動きではなく、先ほどの機械と同等程度のスピードで攻撃が繰り出される。


「――っ!」


 フィールは、その攻撃に合わせて魔法を繰り出すが、完全に破壊するには至らない。


「⋯⋯さすがに、この大きさだと崩しきれませんね」


 フィールはそうぼやきながら、足を止める。そうして、辺りに魔法を展開する。

 そうして、それらが一斉に巨大機械に向かって飛んでいく。

 ガラガラと大きな音を立てて、その機械は崩れ落ちる。


「すごいな⋯⋯」


 そんな光景を前にして僕はそんな言葉をこぼすことしかできなかった。

 だからこそ、僕も、おそらくフィールも予測していなかった。


「⋯⋯力を得ているのが、機械だと思っていたか?」


 フィールの目の前まで接近していた、貴族の男がフィールに向かって攻撃を繰り出す。


「――っ!」


 その攻撃をもろに受けたフィールは、吹き飛ばされる。


「確かに君たちは強いが、油断しすぎたな」


 油断、か。完全にフィールにすべてを任せていたのは僕だったし、それで十分ではと考えていた。相手となるのはフィールと同等の力を持つ相手だというのに。だけど、だからといって、僕は戦力になるほど強くはなかった。どうすればよかったのか。

 男は、手を掲げる。すると、その周囲に集まるように鉄塊が浮遊していく。そうして、その手をフィールに向かって振り下ろす。すると、それらは一斉にフィールのもとへ飛来する。あの男は鉄塊を操って、それを機械に見せかけていたということだろう。


「ですね⋯⋯。油断しすぎでした」


 フィールはそう言葉をこぼして、地を蹴る。空間収納から剣を取り出して、それを振るう。飛来する鉄塊を切り裂いて、男に肉薄する。


「それだけでは届かないぞ」


 フィールの振るった剣はその男に当たる前に停止する。


「近くだと、操作精度が上がるんですね」


 フィールは一度剣を引いて距離をとる。フィールの剣を小さな鉄塊で止めていたのだろう。


「理解が早いな」


 完全に僕は置いてけぼりで、貴族の男とフィールの戦いは進む。


「⋯⋯では、これでどうですか?」


 フィールは複数の魔法を同時に展開して、貴族の男に向けて繰り出す。


「無駄だ」


 男が手を振ると、一筋の光があった後にフィールの魔法すべてが飛散する。


「すべてに当たるように操作したのですね」


「昔からこういう操作は得意でな」


 フィールの魔法すべてに鉄塊をぶつけて、誘爆させた。


「こういうのはどうですか?」


 フィールは再度剣に手をかけて、男に接近する。


「同じことだろう?」


「どうでしょうか?」


 フィールは男に近づいて剣を振るう。


「⋯⋯な!」


 男は、そんな声を上げて、焦るようにして回避する。


「⋯⋯そうか」


 男がそう言葉をこぼした瞬間、僕の視界に光が走る。


「⋯⋯気づくのが早いですね」


 瞬間、フィールの近くにはない、鉄塊が浮遊しフィールに飛来する。


「⋯⋯危なっ!」


 僕の周りにあった鉄塊も飛翔し、フィールに向かって飛んでいくので危うく当たりそうになる。

 フィールはというと、飛来する鉄塊を処理することはできているが、男へ攻撃は届かない。

 僕がどうにかしないといけない。しかし、何ができる?あの場に向かったところで、僕にできることはない。

 フィールにはおそらく今、決定打がない。それは男も同じだろうが⋯⋯。持久戦になったとすれば、僕という明確な弱点を持つフィールの限界のほうが近いだろう。

 つまり、この状況を打破するには僕が動くしかないのだろう。

 前回のことから分かっていたことだろうに。フィールの体を探す旅に出る以上、フィールに頼り切っていたらだめだと。僕も僕なりに努力はしてきたつもりだけど、完全に甘えてたのだろう。

 それに、この道を選んだのは僕だった。フィールを助けたいと思ったのだ。少なくとも、これだけは僕の意志だった。

 とりあえず今はこの状況をどうにかしないといけない。幸い、フィールがすぐに倒れることはないだろう。あの男がフィールの体のパーツを持っていて、周囲の鉄塊を操ることができると⋯⋯。男が暴走していないことは疑問だが、まあ今考えても仕方がないことだろう。

 そして、今、フィールが何かをして、自分の近くの鉄塊は操ることができなくなっている。だから、先ほどは鉄塊で防ぐのではなく回避を選んだのだろう。

 しかし、フィールも鉄塊を封じることに意識を割いているからかいつもよりも動きが鈍い。今のフィールの動きなら僕でも目で追える。⋯⋯いや、いつもの速度だったとしても見ることはできるだろう。それに対応することは難しいが。フィールからも目は良いと言われていた。フィールにすべてで劣っていると思っていたころの僕なら否定していただろうけど、今はフィールよりも見るという面だけなら上回っていることを理解できる。

 だったら、それを生かす。それしかないだろう。しかし、どうやれば生かせる?直接僕が行って、手伝うことは難しい。身体能力があの戦いについていけるほど高くはない。

 バフ魔法だってすでにかけている。だったら、何ができる?何をすればフィールが動きやすい?鉄塊をなくして、戦闘に専念してもらうことが一番だろうけど、方法は思いつかない。そもそも、男はどうやって鉄塊を操っている?

 僕は、男に視線を向け、その動きを観察する。


「これだね⋯⋯」


 よくよく見れば男から光の糸が伸びて、鉄塊を動かしている。おそらく、魔力をつないで操っているのだろう。だったら、それと同じように⋯⋯。

 僕も、鉄塊を操ろうとしてみるが、全く動く気配はない。やり方が分からないとかではなく、単純に僕にはこういった魔法の使い方は向いていない。

 この糸をどうにかするほうが確実か。フィールが戦いやすくなるには。

 ⋯⋯?いや、それ以外にも手はあるだろう?バフ魔法で僕は『合わせる』ことには慣れている。だったら⋯⋯。


「フィール!」


 僕は、フィールにそう声をかけるのだった。

宵「心情描写の難しいこと」

イ「改行の位置とかさっぱりわからないらしい」


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