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第31話 機械の軍勢

〈sideルーク〉

 殺し合おう、か。確かに、フィールの体を取り込んでいるだけならば死んでもなおその力は残る。だけど、僕らの場合は話が変わる。こちらはフィール本人だから、死んだ場合に力が残るのかは不明だ。あの男にそれが分かるわけもないし、教える理由もないが。


「⋯⋯っ」


 先に動いたのは機械で、僕らに向かって何かが飛ばされる。僕は、それを横に跳んで躱して、フィールはそれを叩き落とす。


「遅いです」


 そして、僕とフィールはそのロボットとの距離を一瞬で詰め、僕はナイフをフィールは拳を振るう。正直に言ってしまえば、フィールの力を使っているならあまりにも遅かった。しかし、現存の機械と比べると圧倒的な性能。


「ほう」


 僕らの一撃でその機械は砕け散る。しかし、男は余裕な表情を崩さない。フィールの力を動力として使っているがあれが本体ではないということだろうか?


「動力は私の力で間違いないですが、直接に取り込んではいないようですね」


 フィールは自分のパーツがあればそれを取り込むことができる。それをしていないということは、あの機械にはフィールの体は組み込まれていないということだろう。

 地面には、金属片のみが転がっていて、体のかけららしきものは存在しない。


「一体だけではなさそうですね」


 貴族の男の後ろから、先ほどの機械がぞろぞろと出てくる。おそらく百体以上はいるだろう。これが、あの貴族の男の余裕の理由だろう。そして、おそらくあの中のどれかの機体にフィールの体が組み込まれているのだろう。

 しかし、見た目ではさっぱりどの個体が持っているのか分からない。


「どこにあるかは分かる?」


「いえ、実際にそれと戦ってみないと分からないと思います」


 まあ、そう都合よくはいかないか。僕もフィールの体を持っている相手と直接戦うことになれば気づくことができると思う。先ほどの機械よりは圧倒的に戦闘能力が高いだろうし。


「となると、戦い続けるしかないか⋯⋯」


 僕とフィールで一撃で仕留めた機械だが、戦闘能力はそこらにいる魔物よりも上だ。フィールはたぶん大丈夫だろうが、僕は囲まれてしまえば乗り切れる気はしない。


「マスターは回避に専念してください。多分、回避し続けることは容易ですので」


「それしかないよね」


 フィールのほうが圧倒的に戦闘能力が高い以上、敵の殲滅はフィールに任せて、僕は耐久に意識を向けたほうがいいだろう。耐えてさえいれば、勝手にフィールが敵を倒してくれる。実に情けないが、それくらいの差が僕とフィールの間にはある。


「⋯⋯マスターが気づかないだけで、案外できることはあると思いますよ」


「言ってることが違くない?」


 急に、回避だけをしろという発言に矛盾することを言うフィールにそう返してしまう。


「私は、規格外なので、ここでマスターが下手なことをしてもフォローできますから」


 相手はフィールの一部である以上、規格外の一体であるはずなのにそんなことを口にするフィール。実際、フィールでも、フィールの体を持つ相手の攻撃が直撃したらしんどいだろう。

 だったら、僕は⋯⋯。


「⋯⋯っと」


 後ろから攻撃してきた機械を身を翻して躱す。今は、戦いに集中しなければならないか⋯⋯。


「では、殲滅しましょうか」


「了解」


 そうして、僕らはその機械たちを相手に無双を始める。突出した個体がいるわけでもなく、僕とフィールの攻撃で簡単に崩れていく。


「それだけでも十分な戦力なんだがな」


 貴族の男は、それでも飄々とした雰囲気をまとったまま、そうつぶやく。


「これだけですか?」


 すでに、地面には機械だった鉄くずが転がり、動いている機体は何一つとして存在していなかった。


「でしたら、次は貴方を殺しますよ」


 僕は、空間収納からナイフを取り出して、貴族の男に向ける。不敬罪とでも言われそうだが、この場で証言できる人間はいない。この男から襲われて、それに抵抗しているだけだ。不敬罪と言われるいわれはない。


「殺せるか?君たちに?」


 貴族の男は大きく手を広げる。そうして、一気にその手を閉じる。


「っ⋯⋯!」


 一斉に鉄くずが僕らに向かって飛んでくる。


「壊しても動くのか⋯⋯」


 飛んできた機械が僕の体に傷をつける。

 僕は、そこから飛びのくように避ける。それでもなお、避けた場所から飛んでいく鉄塊が僕の頬を切り裂く。フィールは、と辺りに目を向けると、フィールは飛んでくる鉄塊を何か壁のようなものを作って防いでいた。前に言っていた結界だろうか。

 僕は魔法を使って、先ほど受けた傷を治す。そうして、先ほどから飛来し続けている鉄塊をナイフではじく。

 とりあえず、残骸の少ない場所だと、傷を受けるほどの頻度では鉄塊は飛んでこない。とはいえ、被弾しないだけで精一杯だ。要するに、僕では攻撃する余裕はない。


「どうした?これで打つ手がなくなるのか?」


 貴族の男が、僕らに向かってそう言葉を放つ。正直、僕だとこの状況では現状維持が精一杯で、決定打はない。

⋯⋯僕だけだと。

 フィールは、すでに結界を解いて貴族の男に向かって走り出している。


「流石、力を取り込んでいるだけはあるな」


 フィールと男の間に、鉄塊が集まり、巨大な機械に変形する。そうして、周りの鉄塊すべてがそこに集まり、見上げるほどに大きな機械が立ちはだかるのだった。


宵「ロボット、変形、ロマン」

イ「そんなに見てないくせによく言う」


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