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第25話 割り切る

〈sideルーク〉


 フィールは冒険者か腕を引き抜く。フィールの腕を血が伝い、そして、フィールの体が光りだす。


「体が帰ってきましたね」


 光が落ち着いて、フィールはそう呟く。どうやら今回のダンジョンにあったのは体、おそらく胴体だったのだろう。


「うん」


 僕は冒険者の亡骸を見下ろしながら、そう答えた。


「⋯⋯マスター」


 フィールは僕のほうを見つめつつそう言葉をこぼす。


「さて、行こうか」


 ここでこの冒険者の亡骸を見ていても何も変わるはずがない。僕はそう心を切り替えて出口のほうに足を向ける。

 フィールの体は回収できたのだ。これ以上ここにいる必要はない。


「気にしないなんて無理でしょうけど、切り替えられないとやっていけませんよ」


 そんなことを言われても、簡単に切り替えられなかった。僕は冒険者として生きてきてはいたが、まともな人間が死んだ場面に出くわしたことはなかった。パーティーメンバーの死のような話は伝聞として聞いてはいたが、実際に経験したわけではない。

 そんな僕が、自分たちの手でまっとうな人間を殺してしまったのだ。精神的にかなりしんどい。


「善処するよ」


 僕はそう言って笑みを浮かべる。いつまでも引きずっていたらしんどいままだ。だから、できる限り早く切り替えられるように頑張ろう。



〈side???〉


 視界の隅で去っていく彼らの姿を見送る。


「思ったより、感情的じゃん」


 僕は彼女にちらりと視線を向けて苦笑する。⋯⋯気づかれたかなぁ。まあ確認することもできないのだけど。

 ともかく、今は彼らに意識を割くことはしない。別にやらないといけないことがあるのだ。

 さて、しばらくして彼らの気配がないことを確認して、ナイフを取り出す。

 正直別の手段があればよいのだけど、これ以外の方法が思い浮かばなかった。


「はぁ⋯⋯。いつかこんなことをすることになるとは思っていたけど」


 やはりあまり気が進まない。ぶっちゃけると手が今もなお震えている。


「はぁ⋯⋯ふぅ⋯⋯」


 一つ深呼吸して、僕はナイフを構え彼女に突き立てる。ざくりとナイフが刺さっていく感覚が伝わる。初めて人を刺した感覚というのは想定していた以上に気持ちが悪い。


「はぁはぁ」


 ナイフは深々と突き刺さり、僕はナイフから手を放す。さすがに、僕自らの手でとどめを刺すのは精神的なダメージが大きい。

 そして、それからしばらくしてナイフが光を放って消失する。と同時に、女性の姿が光に包まれて消失する。


「⋯⋯ありがとう」


 光すらも消える直前、どこからかそんな声が聞こえてきたような気がした。


「はは⋯⋯」


 そんな状況に僕は苦笑することしかできなかった。そうして、僕はばたりと倒れこむ。


「これは割としばらく動けないかもねぇ」


 人を殺すというのはやはり精神衛生上よろしくないらしい。頭ではこれが最善であると分かっているけども、どうやら僕の精神的な負担が大きいらしい。ただ、こういうつぶやきを残す程度には脳みその処理能力に余裕はあるらしい。

 とはいえ、僕の仕事はここまでだし、これ以上の干渉っていうのはあまりやりたくはない。あながち僕が全知ってのは間違ってないのかもしれないなぁ。


「まあ、彼らに関わる予定もなかったんだけどなぁ」


 いやはや、偶然とは恐ろしいものだった。声をかけたきっかけは単純に目に入ったからだけど、あの広い街で僕は一日しか、それどころか一、二時間程度しか歩いていなかったんだけどな。そんな状況で出会うって奇跡でしょ。

 まあ割と収穫があったのは事実か。フィールちゃんに話を聞けたのは良かった。実際にあのナイフに効果があることはわかったし。


「というかさ、なんで使ったら消失するナイフなのに使っているって歴史に残されてるんですかねぇ」


 『転生の短剣』僕がこの状況を避けるために盗み出した魔道具で、フィールちゃん曰く、彼女の能力由来の力ではなく龍脈由来の力らしい。この短剣は常に王族が使って同じ王が王として生き続けることができているらしかった。使ったら消滅するのに。

 いやあ、面白いくらいに腐ってるねぇ。これが盗まれて使われていて今後大丈夫なんだろうか。⋯⋯いや大丈夫か。

 そもそもこの短剣、消滅することが知られてんのかね。知らないんだろうなぁ。知られてたらずっと使ってますなんて言わないか。


「できれば持って帰りたかったんだけどな」


 『転生の短剣』はあるならあるで今後の活動が楽になりそうなんだけど。まあ、使えないもんは仕方ない。できるだけ、やれるだけやりますかね。


「と、そろそろ起き上がりたいなぁ」


 いい加減、割り切って立ち上がれる状態までは回復したいな。むー、これはそうそう人を殺すことはできなさそうだなぁ。いや、殺さずに済むならそれのほうがいいんだけどね。

 さてと、そろそろ起き上がれそうかな。ちょっと無理やりに、体を起こす。


「さーて、帰りましょうかね」


 これ以上は僕がすることもないし、したいこともない。これ以上何かしてバラフライエフェクト的な何かが発生しても困るし、順調に進んでいるみたいだからね。僕はそこまで考えて姿を消すのだった。


宵「図太いなこの子」

イ「更新遅れたことに何か言い分は?」

宵「知らない」

イ「いいころ君も図太いね」

宵「テストがあったんよ、許して」

イ「書き溜め、作れ」


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