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第22話 怪力の騎士

〈sideルーク〉


 僕らがそこに足を踏み入れるとそこには、多くの騎士とそれに守られるようにいる一人の男の姿があった。


「何者だ?」


 そいつは僕らの存在に気づいてそう口にする。


「⋯⋯マスター恐らくあそこにあるのが⋯⋯」


 僕はフィールの示す方向に目を向ける。するとそこには。


「私の体と宿で会った女性冒険者かと」


 朝、出会った弟を探しているという女性の冒険者と何らかの機械らしきものがあった。⋯⋯フィールの言葉から考えるに、あの機械の下にフィールの体があるのだろう。


「そうか。この冒険者の知り合いだったか」


 その男は、僕らが女性冒険者の姿を見ている様子を見てそう口にする。僕と彼女は知り合いというほど深い友好関係があったわけではない。ただ、事情を聴いているだけ。


「なるほど。消えたこいつを探してきたのか。情報が早いな」


 男は女性冒険者を一瞥してこちらに向き直る。


「ということは、こいつの弟を殺したのは私だと聞いているのか」


 ⋯⋯それは初耳だな。僕はそう思ったのだが。


「⋯⋯なるほど、どおりで」


 フィールは小さくそう呟いた。


「なるほどって?」


「いえ、私たちに聞いてくるときにそこまで熱心さを感じなかったので」


 なるほど。そこでフィールは疑っていたのか。


「その様子を見ると知らなかったのか」


「⋯⋯確認もせずに教えてよかったんですか?」


「どのみち殺す予定だからな」


 男はそう言って僕らに殺意を向ける。とはいえ、この男は戦い専門ではないようでそこまで圧はない。


「⋯⋯一応、囲まれてますね」


 フィールのその言葉に辺りを見渡すと、僕らはすでに囲まれていた。

 ただ、フィールが一応とか付けたせいで緊張感が全くない。確かに、フィールにかかればこんな包囲網はあってないようなものなのだろうけど。


「マスターにもこのくらいなら相手できますよ」


「流石に包囲されてたらきつくない?」


「立ち回り次第ですけど、全然問題ない範疇です」


 えぇ⋯⋯。僕を過剰に評価しすぎじゃないか?それは。


「さて、殺れ」


 男がそう声を発した途端、僕の周りを囲っていた騎士たちは一斉に距離を詰めてくる。


「落ち着いて対処すればマスターでも大丈夫ですよ」


 フィールはそう僕に声をかけて文字通り姿を消した。辺りには四方八方に騎士が吹き飛んでいく光景が。⋯⋯もう少し加減してあげようよ。

 内心そんなことを思いつつ、フィールの隙間を潜り抜けたのか見逃されたのか、そんな騎士の攻撃を身をひねって回避する。すれ違いざまに、鎧の継ぎ目に攻撃を入れて相手のバランスを崩す。相手は全身鎧だから、一度バランスを崩して、倒れこんでしまえば立ち上がることは難しい。

 それに⋯⋯。さらに流れ込んでくる騎士たちを順々に倒していく。乱戦状態になれば、立ち上がる前にほかの騎士という名の鉄の塊が体の上にのしかかってくる。


「余裕でしたよね?」


 いつの間にか隣に来ていたフィールがそう声をかけてきた。確かに、思っていたよりも動くことができていた。フィールと出会う前の僕だと、騎士一人が相手でも勝つことは難しかっただろう。それくらいには知識がなかったのだと痛感させられる。


「君たちも思っていたよりも強いようだ。⋯⋯だが、お前たちのような子供ではこいつは倒せまい」


 そう言って、貴族の男は片手を振り上げる。瞬間、土煙を上げてその中から騎士の一人が姿を現す。僕の記憶が正しければ、フィールが吹き飛ばしていた騎士の一人だろう。


「起き上がれない程度にはダメージを与えたはずなんですが⋯⋯」


 僕の隣でフィールはそう言葉をこぼす。実際、人間が生身で受けてはいけないような速度で吹き飛んでいく姿を横目に見ていた。あれで、起き上がれない程度なんだな⋯⋯。人体って割と頑丈なんだと感心する。

 騎士はすでに意識があるようには見えない。白目をむいていて足取りもおぼつかない。そんな状態なのだから満身創痍と言っても過言ではないだろう。


「⋯⋯とりあえず、戦ってみます」


 フィールはそう僕に声をかけて、一瞬で騎士の前まで接近する。近づいてきたフィールを追撃するように、騎士は拳を振り上げる。


「⋯⋯なるほど」


 フィールはそう呟いて、その拳を身をひねって躱し、横側からをはじく。それによってバランスを崩した騎士の横腹を蹴り飛ばし、騎士は弾丸のような速度で飛んでいく。

 フィールはそんな騎士に目もくれず、女性冒険者のほうへと駆けていく。


「マスター!そっちはお願いします」


 僕はフィールにそう声をかけられ、地を蹴る。起き上がり、フィールを追いかけようとする騎士の前に立ちふさがる。


「僕が相手だ」


 僕は騎士の注意を引くようにそう口に出す。騎士は見た目通りに自我はないようで、その挑発にあっさりとかかる。

 騎士はフィールにしたのと同じように、僕に向かって拳を振り上げる。


「それはさっき見たよ」


 振り下ろされる拳を僕も身をひねって躱す。とはいえ、フィールのようにここで拳をはじくような器用さはない。

 躱した拳が僕の横を過ぎていく。それだけで、僕に伝わってくるほどの風圧が発生する。


「⋯⋯うそでしょ」


 僕は直感的に騎士からさらに距離をとる。拳が振り下ろされた場所にはクレーターのようなものができている。異常な筋力だ。⋯⋯だというのにそれを見た僕は、フィールほどじゃないと考えてしまう。僕にあそこまでの力があるわけじゃない。だけど、フィールに比べると大したほどじゃない。だから、僕はその騎士の姿を見据え呟く。


「次で仕留める」


宵「次回、ルーク君の勇士をご覧あれ」

イ「⋯⋯」

宵「たまには、あとがきしないとね」

イ「⋯⋯何を今更」


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