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第17話 VS最強

〈sideルーク〉


「――っ!」


 フィールから繰り出された拳をぎりぎりで回避する。僕は現在フィールによる戦闘訓練を受けていた。貴族時代に受けてはいたがここまで激しいものではなかった。貴族時代の戦闘訓練は才能がないとかでほとんど指導がなくなった。フィールは才能あるって言っているのが謎だよな⋯⋯。


「油断してはいけませんよ」


 フィールは回避でバランスを崩した僕に蹴りを打ち込んでくる。⋯⋯油断しているわけではないんだけどな。


「うぐっ!」


 何とか腕をクロスにして衝撃が体に届くのを防ぐ。腕がしびれる感覚をこらえつつ、フィールから飛びのき距離をとる。


「悪手ですよ」


 フィールは、僕が飛びのくであろう先に移動して攻撃を仕掛ける。⋯⋯流石に躱せない、な。


「終わりですね」


 フィールは僕の首元に手刀を軽く当て手を放す。駄目だな。十秒も持たなかった。

 若干ふらふらとしながらも、僕は立ち上がる。先ほど蹴りを受けた腕が今更になって悲鳴を上げる。下手したら折れているのでは?

 腕に手を当てフィールから教わった治癒魔法をかける。


「戦闘中にできたらなお、よいですね」


 フィールは僕が治癒魔法をかけているのを見てそう口にする。厳しくないですかね。


「⋯⋯」


 フィールは治療している僕に軽く攻撃を仕掛ける。身をひねってそれを躱しつつ、治療は続行する。


「このまま攻撃しますね」


 フィールは僕が治療している間も攻撃を仕掛けてくるつもりらしい。


「了解」


 僕はそれを了承する。僕もいろいろ文句垂れていたが、僕とフィールの差を感じていた。だから、少しでも力の差を埋めたいと思っていた。


「――っ!」


 フィールは一瞬で僕の背後に回る。これだけ距離が近ければ何とか視認はできる。僕は前方に転がりながら回避する。先ほどまで僕のいた場所をフィールの蹴りが通り、僕の上を炎が通過する。


「魔法も躱しますか」


 フィールはそう呟いて、地を蹴り姿を消す。


「⋯⋯上か!」


 上に跳ばれると、一瞬で視界が見切れてしまう。フィールのほうに目を向けると、僕の上をとっている。横に跳んでその攻撃を回避する。

 しかし、フィールの手が土を巻き上げ、視界をふさぐ。


「⋯⋯こっちです」


 右側からそんなフィールの声が聞こえてくる。完全に後ろをとられると思っていた僕はそれへの対応が遅れる。フィールの拳を後ろに跳んでいなす。

 そして、着地と同時に地を蹴りフィールに接近する。追撃を仕掛けようとしていたフィールとすれ違うような形になる。


「そうやって躱しますか」


 先ほどと違って距離をとることはできた。とはいえ、僕はフィールの反撃を確信していたわけではないから、単純な読み合いだっただろう。僕に攻撃に転じる余裕がないから、勝ち目はない、な。


「⋯⋯これくらいで終わりましょうか」


 かれこれ二、三時間は戦闘を繰り返し、ようやくフィールから一息つく間をとることができたところでフィールがそう提案する。

 それを聞いた僕は糸を切ったように倒れこむ。ずきりと頭が痛む。腕のほうは、治療が終わりすでに痛みはない。


「私、水をとってきますね」


 フィールはそんな僕を見てそう声をかける。


「お、おねがいします」


 そう言われると、喉の奥に渇きを感じる。しかし、体のほうは悲鳴を上げて今すぐ動けそうもない。視線をくぐるってこんな感じになるんだろうか。


「分かりました」


 フィールはそう返事して、僕の目の前から去る。多分、先ほどの模擬戦がなければフィールは文字通り姿を消していただろう。多少は成長しているのかもな⋯⋯。少し感慨深い気持ちになる。


「持ってきました」


 フィールは荷物を置いていたスペースから筒を持ってきて僕に手渡す。


「ごほっ」


 それを思いきり呷り、気管に入って咽る。せき込んだことで全身にじくりとした痛みが走り、思わず顔をしかめる。


「治療しましょうか?」


 そんな様子を見たフィールはそう声をかける。


「いや、少し休めば動けるようになるから大丈夫」


 体は痛いが、慣れないことをした反動だろう。


「⋯⋯休んですぐに治るものでもないでしょうに」


 フィールはそう呟いて、僕の隣に座る。外傷はほとんど治っているからあとは筋肉痛やらの痛みだから、確かに休んだら治るというわけではないんだけどね。


「先に宿にでも戻ってていいよ」


 僕はフィールにそう声をかける。僕が回復するまでここにいるつもりなんだろうけど、流石に退屈だろう。


「いえ、特に戻ってもすることはないので」


 フィールはそう断って、僕の隣でぼーっとしている。


「⋯⋯暇じゃない?」


 そんなフィールを見て、僕はそう声をかける。


「暇には慣れてますので」


 フィールはつぶやくようにそう言って黄昏れる。単純に今までダンジョンに封印されてきたことによってなれたのか、失った記憶に関係があるのかそれは僕には分からない。


「⋯⋯そっか」


 だからか、僕はそう言葉を返すことしかできなかった。暇に慣れるような経験が僕にあるはずもない。


「別に、慣れてる分に悪いことはないですよ。お気になさらず」


 若干空気が悪くなったのを察してフィールはそう言葉を紡ぐ。


「そ、そうだね。⋯⋯何か別のことでも話してようか」


 僕は無理やり話題を変えようとする。慣れているからと言って相手に暇をさせるわけにもいかない。


「⋯⋯別のこと、とは?」


 話題を考えずに発言してしまったせいでそう聞き返されてしまうのだけど。


イ「暇って慣れるもの?」

宵「あれじゃない?想像に慣れるとか」

イ「想像ってなれるもんだっけ?」

宵「⋯⋯私は好きだよ」

イ「マスターが好きであろうがなかろうがどうでもいいよ」

宵「辛辣」


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