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7.罠の孤島


噂の島には、できれば行きたくない。だって、罠だらけなのだ。ここだけでミニゲームが上手くクリアできなくて、4回死んだ。



ピロリーン

*****


メインクエスト

亡国の関係者を探して、島にわたれ

港町で情報を集めて、故国の関係者に会おう


報酬:思い出のブレスレット


*****


故国の関係者って言うけど、ろくな話は聞けないのに。


「ユーリ、アミュダットの関係者が沖合の島に居るって噂を聞いたよ。行ってみよう。」


いやいや、トーマス、どうしてあなたが乗り気なのよ!


「で、でも、敵の罠かもしれないし。」

「僕の心配をしているの?でもこんな機会次にいつ来るか分からないよ。行ってみよう。」

「船も無いわ。」

「大丈夫。船頭に話をつけてきたよ。」


え?木の板を握って泳ぐんじゃないの?船?

なんだろう。もしかして、トーマスって、親密度をあげれば、超絶お役立ちキャラ?

とにかくありがたいので、船に乗らせてもらおう。

メインクエストなんだから、行かないと先に進めないし。




「あんたらも物好きだなぁ。あんな島に行きたいなんて。」

「どういう事ですか?」

「あそこは呪われているって噂もあって、誰も近づかないんだよ。」

「呪い?どんな呪いですか?」

「なんでも太古の呪いだそうだ。」


つまり、分からないって事だ。あるあるだよね。


ペンダントを手に入れてから、ユーリは何かが吹っ切れたような気持ちになった。

主人公になり、ろくな食事もできず、寝る場もない。怖くて、辛くて、帰りたかった。

でも、ペンダントの重みが、これが自分の現実だと告げている。


諦めたら、前向きになった。トーマスもいる。

ストーリーを放り出して、逃げ出しても、彼と二人生きていける気がする。彼となら、ゴールも目指せるかもしれない。


この世界で生きていく、そう心が決まった。




船は島の南の海岸で2人を下ろしてくれた。3日後に、また迎えに来る約束をして、離れていく船に不安は感じたが、トーマスが手を握ってくれたので、落ち着いた。


「行こう、ユーリ。」

「うん。」



ユーリ達は海岸線に沿ってぐるりと島の外側を回った。かなり小さな島だ。

それでも、あちこちに落とし穴の罠がある。


しかぁし!そこでトーマス!

彼は土魔法で、罠の有無を確認し、危ない場所は風魔法で体を浮かせて、罠を避けてくれた。


ユーリはありがたくて、涙が出そうになった。


「ごめんね。僕の風魔法が、もっと強かったら、ユーリを抱いて、島の上から様子が見れたのに。」


紳士!天使!トーマス様!!


「大丈夫だよ。トーマスのおかげで罠にかからないだけで、凄くありがたい。」

「うん。」

トーマスの耳がほんのりと赤くなる。

どうしよう。トーマスが可愛い。


外周には何も無かったので、ユーリ達は島の中央に向かった。あれだけ罠だらけなのだ。何かあるはず。


そう。誰もがそう思う。でも、ゲームでは、行ってみたけど、耳の聞こえない老婆が一人で暮らしていただけだったんだよね。本当にくたびれもうけだった。

ただ、老婆の住む小屋の中で、紋章の入った短刀を見つけて、こっそり拾ってくる。それだけのクエストだった。



小屋の中央には、小さな小屋がひとつ。


「行ってみよう。」


トーマスに引かれながら、小屋に向かい、扉を叩いた。


「誰だ!」

「港町で噂を聞いて来ました。話を聞かせて貰えませんか?」

「……」

「アミュダットの事を聞きたいのです。お願いします。」


トーマスがいきなりアミュダットと言い出したので、ユーリは驚いた。言っちゃう??


扉がギィーッと開き、老婆がそこに立っていた。老婆はユーリの顔を見るなり、驚いた顔をしながらも、無言で2人を小屋に入れてくれた。


「何を聞きたいのか分からないね。」


老婆の目は、話しながらもユーリから離れない。


「ユーリ、ペンダントを見せてあげて。」

「見せるの?」

「その方が、話を聞けると思うよ。」


頷いて、襟元からペンダントを取り出した。老婆の目が大きくなる。


「そ、それは!……その髪、その目、まさか、あなた、いえ、貴方様はユーリエ様なのですか?」


ユーリは頷いて肩の紋章を見せた。


「あ、ああ、ご無事で。神に感謝します。」


老婆は涙ながらにボツボツと話をした。彼女はユーリの護衛の母で、妹姫の乳母だった。


「妹は今、どこに?」

「お亡くなりになりました。私が埋葬を。」


そうか。死んだんだ。


「王女様にお伝えする事がございます。」

「何?」

「サキュガイアの王は人間ではございません。」

「人間では無い?」

「あれは魔物。おそらく魔王でございます。」

「何か見たの?」

「王の攻撃を受けた時、人の偽装が解けました。私と姫様は王が戦うすきにその場から逃がされましたので、見たのはほんの一瞬でした。でも、額の角は見間違えようもございません。」

「魔王……。」

「王女様、こちらをお持ちください。」


彼女が渡してくれたのは、紋章入りの短刀と、銀のプレートが着いたブレスレット。


「これは?」

「姫様の短刀と、私のブレスレットです。私にはもう一人息子がいます。王女様の護衛をしていたのは弟でございました。長男は当時、他国に武術交流で出かけておりました。王女様は覚えておられないと思いますが、剣聖と呼ばれておりました。」


そういえば、異常に強い剣士がいた記憶がある。そうか、彼女の息子だったんだ。


「このブレスレットをしていれば、息子は王女様と出会い、必ず助けとなりましょう。」

「……ありがとう。」


短刀は妹の遺品だったのだ。もう家族は生きていない。


「ユーリ。」


トーマスに頬を撫でられて、ユーリは自分が泣いていることに気がついた。


船が迎えに来るまで、ユーリ達は小屋で過ごした。亡くなった妹姫の事。老婆の息子の子供の頃の話など、色々な話を聞いた。


旅立つ日、老婆を一人残す事などできなくて、共に行こうと老婆の部屋を訪れれば、安らかに眠ったまま、息を引き取っていた。


「ユーリに会えて、心残りが無くなったんだね。埋葬してあげよう。」


ユーリは涙が止まらなくて、返事も返せなかった。

トーマスが開けてくれた穴に彼女を埋め、石と花を供えた。



迎えの船に乗り、島を離れた。ユーリの耳には、今も老婆の声が聞こえる気がする。


「島に何かあったかい?」

「いや、何も無かったよ。」


肩に回されたトーマスの手は温かかった。


港町に戻り、数日、何もする気になれなくて、宿ですごした。トーマスはそんなユーリをただ優しく見守ってくれた。


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