7.罠の孤島
噂の島には、できれば行きたくない。だって、罠だらけなのだ。ここだけでミニゲームが上手くクリアできなくて、4回死んだ。
ピロリーン
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メインクエスト
亡国の関係者を探して、島にわたれ
港町で情報を集めて、故国の関係者に会おう
報酬:思い出のブレスレット
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故国の関係者って言うけど、ろくな話は聞けないのに。
「ユーリ、アミュダットの関係者が沖合の島に居るって噂を聞いたよ。行ってみよう。」
いやいや、トーマス、どうしてあなたが乗り気なのよ!
「で、でも、敵の罠かもしれないし。」
「僕の心配をしているの?でもこんな機会次にいつ来るか分からないよ。行ってみよう。」
「船も無いわ。」
「大丈夫。船頭に話をつけてきたよ。」
え?木の板を握って泳ぐんじゃないの?船?
なんだろう。もしかして、トーマスって、親密度をあげれば、超絶お役立ちキャラ?
とにかくありがたいので、船に乗らせてもらおう。
メインクエストなんだから、行かないと先に進めないし。
「あんたらも物好きだなぁ。あんな島に行きたいなんて。」
「どういう事ですか?」
「あそこは呪われているって噂もあって、誰も近づかないんだよ。」
「呪い?どんな呪いですか?」
「なんでも太古の呪いだそうだ。」
つまり、分からないって事だ。あるあるだよね。
ペンダントを手に入れてから、ユーリは何かが吹っ切れたような気持ちになった。
主人公になり、ろくな食事もできず、寝る場もない。怖くて、辛くて、帰りたかった。
でも、ペンダントの重みが、これが自分の現実だと告げている。
諦めたら、前向きになった。トーマスもいる。
ストーリーを放り出して、逃げ出しても、彼と二人生きていける気がする。彼となら、ゴールも目指せるかもしれない。
この世界で生きていく、そう心が決まった。
船は島の南の海岸で2人を下ろしてくれた。3日後に、また迎えに来る約束をして、離れていく船に不安は感じたが、トーマスが手を握ってくれたので、落ち着いた。
「行こう、ユーリ。」
「うん。」
ユーリ達は海岸線に沿ってぐるりと島の外側を回った。かなり小さな島だ。
それでも、あちこちに落とし穴の罠がある。
しかぁし!そこでトーマス!
彼は土魔法で、罠の有無を確認し、危ない場所は風魔法で体を浮かせて、罠を避けてくれた。
ユーリはありがたくて、涙が出そうになった。
「ごめんね。僕の風魔法が、もっと強かったら、ユーリを抱いて、島の上から様子が見れたのに。」
紳士!天使!トーマス様!!
「大丈夫だよ。トーマスのおかげで罠にかからないだけで、凄くありがたい。」
「うん。」
トーマスの耳がほんのりと赤くなる。
どうしよう。トーマスが可愛い。
外周には何も無かったので、ユーリ達は島の中央に向かった。あれだけ罠だらけなのだ。何かあるはず。
そう。誰もがそう思う。でも、ゲームでは、行ってみたけど、耳の聞こえない老婆が一人で暮らしていただけだったんだよね。本当にくたびれもうけだった。
ただ、老婆の住む小屋の中で、紋章の入った短刀を見つけて、こっそり拾ってくる。それだけのクエストだった。
小屋の中央には、小さな小屋がひとつ。
「行ってみよう。」
トーマスに引かれながら、小屋に向かい、扉を叩いた。
「誰だ!」
「港町で噂を聞いて来ました。話を聞かせて貰えませんか?」
「……」
「アミュダットの事を聞きたいのです。お願いします。」
トーマスがいきなりアミュダットと言い出したので、ユーリは驚いた。言っちゃう??
扉がギィーッと開き、老婆がそこに立っていた。老婆はユーリの顔を見るなり、驚いた顔をしながらも、無言で2人を小屋に入れてくれた。
「何を聞きたいのか分からないね。」
老婆の目は、話しながらもユーリから離れない。
「ユーリ、ペンダントを見せてあげて。」
「見せるの?」
「その方が、話を聞けると思うよ。」
頷いて、襟元からペンダントを取り出した。老婆の目が大きくなる。
「そ、それは!……その髪、その目、まさか、あなた、いえ、貴方様はユーリエ様なのですか?」
ユーリは頷いて肩の紋章を見せた。
「あ、ああ、ご無事で。神に感謝します。」
老婆は涙ながらにボツボツと話をした。彼女はユーリの護衛の母で、妹姫の乳母だった。
「妹は今、どこに?」
「お亡くなりになりました。私が埋葬を。」
そうか。死んだんだ。
「王女様にお伝えする事がございます。」
「何?」
「サキュガイアの王は人間ではございません。」
「人間では無い?」
「あれは魔物。おそらく魔王でございます。」
「何か見たの?」
「王の攻撃を受けた時、人の偽装が解けました。私と姫様は王が戦うすきにその場から逃がされましたので、見たのはほんの一瞬でした。でも、額の角は見間違えようもございません。」
「魔王……。」
「王女様、こちらをお持ちください。」
彼女が渡してくれたのは、紋章入りの短刀と、銀のプレートが着いたブレスレット。
「これは?」
「姫様の短刀と、私のブレスレットです。私にはもう一人息子がいます。王女様の護衛をしていたのは弟でございました。長男は当時、他国に武術交流で出かけておりました。王女様は覚えておられないと思いますが、剣聖と呼ばれておりました。」
そういえば、異常に強い剣士がいた記憶がある。そうか、彼女の息子だったんだ。
「このブレスレットをしていれば、息子は王女様と出会い、必ず助けとなりましょう。」
「……ありがとう。」
短刀は妹の遺品だったのだ。もう家族は生きていない。
「ユーリ。」
トーマスに頬を撫でられて、ユーリは自分が泣いていることに気がついた。
船が迎えに来るまで、ユーリ達は小屋で過ごした。亡くなった妹姫の事。老婆の息子の子供の頃の話など、色々な話を聞いた。
旅立つ日、老婆を一人残す事などできなくて、共に行こうと老婆の部屋を訪れれば、安らかに眠ったまま、息を引き取っていた。
「ユーリに会えて、心残りが無くなったんだね。埋葬してあげよう。」
ユーリは涙が止まらなくて、返事も返せなかった。
トーマスが開けてくれた穴に彼女を埋め、石と花を供えた。
迎えの船に乗り、島を離れた。ユーリの耳には、今も老婆の声が聞こえる気がする。
「島に何かあったかい?」
「いや、何も無かったよ。」
肩に回されたトーマスの手は温かかった。
港町に戻り、数日、何もする気になれなくて、宿ですごした。トーマスはそんなユーリをただ優しく見守ってくれた。