6.封印の洞窟へ
熱が下がったトーマスは、なぜか急に大人っぽくなった。
子供っぽかった顔立ちは、頬の丸みがなくなり、少年から青年の顔へ。背は20センチ以上伸びて、ユーリの正面にあった顔は、見上げる位置になった。
声も、少し低くそれでいて柔らかい。伸びた白い髪は紐で結ばれ、神秘的な紫の瞳は甘さと鋭さが加わった。
ユーリは急に大人になった友達に、眩しさと、羨望を感じてしまう。自分だけ取り残された気分だ。
洞窟へ行く時も、以前はユーリが後ろに乗って手網を握ったのに、今は、トーマスがその位置にいる。
トーマスに支えられている部分がなんだか熱い。
「ここだわ。」
洞窟の入口は岩で塞がれていたが、プレートを差し込めそうな亀裂がある。ユーリは人買から手に入れたプレートをそこに差し込んだ。
ズズズズズ
重々しい音と共に、岩が割れて、洞窟の入口が現れた。
「へぇ、こんな風になってるんだ。」
「ユーリ、気をつけて進もう。」
「うん。」
トーマスが前にたって、二人は洞窟の中へと進んで行った。
百合子は、このクエストが出来なかったので、洞窟に何があるかを知らない。
「この洞窟の中に何があるんだろうね。お宝?」
「ユーリはお宝が欲しいの?」
「どうかな。でも、特別なものがありそうな気がする。」
「そうだね。」
洞窟の中に魔物は出て来なかった。灯りの魔法で足元を照らしながら歩くが、今のところ脇道もなく、真っ直ぐな一本道だ。
正面方向が、ほんのり明るくなってきた。
「誰かいるの?」
「いや、これは、光苔だ。」
「初めて見る。」
洞窟の奥は、一面に光苔が生えて発光している不思議な空間だった。部屋の中央には、崩れた白骨があり、そのすぐ側に木の箱があった。
「ずっと、この人が守っていたのかな。」
「そうだろうね。どうするユーリ、開けてみる?」
「うん。でも、その前に、白骨を埋めてあげよう。」
「わかった。僕がやるから、ユーリは離れて待っていて。」
「うん。」
トーマスは地面に手をついて詠唱を唱える。地面が少し揺れて、ボコリと、穴が空いた。
二人で、白骨をそこに収め、土を被せ、冥福を祈った。
二人で木の箱の前にしゃがみ、蓋を開けた。そこには、一通の手紙とペンダントが入っていた。
これ、知ってる。
これを百合子は中盤の古城で、手に入れた。
主人公にとって、このペンダントは、自分の出自を証明するものだ。
主人公は身一つで国を出た。自分の身分を証明するものは、主人公を護衛していた騎士が持っていたが、彼とは逃亡の途中で別れ別れとなってしまった。
ならば、先程の白骨が彼だったのだろう。
自分の肩にある紋章は、ペンダントに描かれた紋章と同じ。
滅ぼされた王家の証だ。
ユーリは恐る恐る手紙の封を切る。
そこには、護衛騎士のユーリへの守りきれなかった事への謝罪と、生き延びて欲しい切実な思いが書かれていた。
彼がどうしてここにいて、あの人買がこの入口のプレートを持っていたかは分からない。
ただ、この手紙を読むと、彼の事を百合子は知らないはずなのに、彼の真摯な姿が思い出され、彼の少し困ったような笑顔まで浮かんできて、涙が止まらなかった。
「ユーリ、これは君の?」
「そう。」
「君はアミュダットに関わりがあったんだ。」
「……話さなくてごめん。もう追っ手も来なかったので、黙ってた。追っ手が来ればトーマスに迷惑をかけるのに、ごめんなさい。」
「話してくれる?」
「私は、アミュダットの王女。いつか力をつけて、両親や民の復讐をしたいと思ってた。でも……私には何の力も無い。」
そう。まだユーリは勇者として目覚めていない。
目覚めるのは、多分、中盤以降。
「家族や助けてくれる人は、どこかにいるの?」
「分からない。両親は殺され、妹とは生き別れになった。」
「アミュダットを滅ぼしたのは、隣国のサキュガイアだよね。今でもユーリを狙っているの?」
「多分。」
「ユーリは復讐したい?それとも復讐を忘れて、平穏に行きたい?」
「自分でもよくわからない。追っ手に追われずにいる今が安心できるけど、でも……。」
「そうか。じゃあ、ユーリの気持ちがどちらになってもいいように、二人でもっと強くなろう。」
「トーマス。」
まるで、愛の告白のようだ。ゲームをプレイしていた時は主人公を裏切る相手だったのに、今では、こんなに信頼できる。
その後、トーマスに請われるまま、昔話をしながら、眠りについた。
洞窟の中なので、今が朝なのか、夜なのかも分からない。
それでも目覚めてから、食事をし、手紙をしまって、ペンダントを首にかけた。
それから、一緒にあったゴールドを拾い、洞窟を後にした。
今はまだ、あてもなく旅を続けるだけ。トーマスはなぜ旅をしているのか聞いたけど、特に目的は無いと答えた。
武者修行のようなものだろうか?
そして、辿り着いた港町で、私はあの噂を耳にする。
沖合の小島に亡国アミュダットの関係者がいると言う噂。