表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

2.ゲームスタート


ピロリーン


聞き慣れた音と共に、目の前に小さな画面が表示される。


*****


ゲームをスタートします。性別を入力して下さい。

男性/女性


*****


悩みながらも、由利子は女性を選んだ。

指で指し示さなくても、考えるだけで選択できた。

いつもなら彼女は男性キャラを選択する。このゲームでもそうだった。しかし、上手く行っていない自覚はある。

自分の命がかかっているなら、少しでも自分がシンクロしやすいキャラにすべきだろう。


それに、トイレや風呂の事を考えると、恥ずかしくて選択できなかった。


ピロリーン


*****


主人公の名前を入力して下さい。

入力は音声入力できます。


*****


入力欄でカーソルが点滅している。音声入力しろってことね。


「ユーリ」


名前はいつもと同じ。男性でも女性でも通る名前。

画面に名前が表示され、一瞬目の前が真っ白になった。


周りの景色が戻ってきたので、立ち上がる。

ゲーム通りなら、ここにいつまでもは居られない。追っ手が近づいているからだ。

小さなクローゼットを開ければ、小型の剣と、薬草袋があった。

机の引き出しには、少しばかりのお金が入った皮財布。

ユーリの体は由利子が15歳の頃より、ずっと細い。この一ヶ月の逃亡生活で、ろくに食べるものもなかったせいだ。


垢染みた布の服、それだけが彼女の防具。

ゲームスタートなんてそんなもんだと思っていたが、現実になってみれば、どれほど心細いことか。

最初の武器が木の剣や棍棒でなく、短いなりにも鉄の剣な事に驚いていたが、これぐらいはないと、全く生き延びられない。


勇者になる前に死ぬしかない。



ユーリは剣を腰に差し、小さなリュックに薬草と財布を入れて立ち上がった。

小屋を出たところで、樽の影に身を隠す。



ピロリーン


*****


イベントクエスト発生


ならず者を閉じ込めろ

報酬:馬、普通の弓、100ゴールド、ラッキー値10


クエストを受けますか?


はい/いいえ


*****


もちろん【はい】だ。これから先の旅、馬が居るのと居ないのとでは大きく変わる。

ユーリは樽の足元に落ちている大きな鉄の釘を握り締めて、はいを選択した。



間もなく小屋の正面方向から、荷馬車が一台やってきた。

馭者台に座っているのは、人相の悪い男。それと、2頭の馬に乗った、これも柄の悪そうな男達。


男達は小屋に着くと、酒瓶を抱えて小屋に入っていった。

荷馬車の中から人のうめき声が聞こえるが、ユーリは動かない。

ここで直ぐに動くと、男達に見つかって殺されてしまうからだ。


しばらく待てば、男達が酒盛りをしている声が聞こえてくる。

あと少し。もう少し。

男達の声が呂律が回らなくなってきた。ユーリはそっと扉に近づくと、扉の取っ手と扉横の金具に引っ掛けるように鉄の釘を差し込んだ。

そして、足音を忍ばせたまま、荷馬車に近づく。


荷馬車の荷台には商人とその使用人が3人。護衛と思われる男達は、既になくなっている。


ユーリは目のあった商人に、唇の前に人差し指を立てて、静かにするよう指示を出した。商人が黙って頷いたのを確認して、近寄り、剣を抜いて縄を切る。使用人の縄を切ってから、小声で商人に話しかけた。


「荷馬車を動かせますか?」

「はい。私が動かせます。」


商人と一緒に馬が繋いである木の下に行き、荷馬車を引く馬を連れて戻る。荷馬車に馬を繋ぐのを商人に任せ、ユーリはもう一頭の馬を連れに戻り、もう一頭も紐を切って、自由にさせる。


荷馬車の馭者台に座る商人と、頷き合い、一気に駆け出した。

後ろで、扉を開けようとする音がするが、直ぐには開かない筈だ。

それに、追いかける足も無い。


ユーリは必死に馬を駆りながら、今更ながら、馬に乗れる事に驚いた。由利子は馬なんて乗ったことが無い。ユーリはやはりこのゲームの登場人物なのだと感じた。



近くの町まで辿り着いた時には、ユーリはもう倒れそうになっていた。

設定通りなら、もう二日も食べていない。あの小屋に着いたのは偶然だった。


「助けて頂き、ありがとうございました。」

「……いいえ。」

「ささやかですが、こちらを受け取って下さい。」


商人がゴールドが入った皮袋を差し出した。

本当ならば、命の恩人なのに、ユーリの身なりが余りにも酷いので、軽く思われたのだ。

でも、この商人との出会いは必要で、後々に効果がある。出来れば友好な関係を築きたい。


「ありがとうございます。」

「あぁ、それから、あいつらの持ち物でしょうが、荷馬車の中にこれが落ちていました。よろしければお持ち下さい。」


渡されたのは弓。これも必要なアイテムだ。


「助かります。ありがとうございます。」


ユーリは頭を下げて、商人に背を向けた。


「お待ちください。よろしければ、私共と食事を一緒にいかがでしょうか?」

思わず笑みが溢れる。

「良いのですか?」

「はい。こちらへどうぞ。」


商人に食事を奢られるのは初めてだ。そう言えば、弓を受け取った時に礼を言ったのも初めてだった。謝礼金の低さに、黙って弓を受け取っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ