1.ハードモードの第1章
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「あー!また死んだ!もうっ何回目よ!!」
由利子が嵌っているアクションRPGは、ストーリーは結構懐かしいもので、亡国の王子が、仲間を集め、魔物を倒しながら、勇者となって、自分の国を滅ぼした魔王を倒すというものだ。
そんなありきたりのストーリーなのに人気が出たのは、美麗なイラストと、バトルモードの派手さ。共闘する仲間キャラの多彩さ。
そして、丁寧に作り込まれたクエストモードの面白さにあった。
イージーモードとハードモードがあり、ゲーム慣れしていた由利子は、迷わずハードモードを選んだのだが……
序盤部分だけで、十数回死ぬと言う状況だった。
アクションモードも中々難しいが、ここはゲーマーとしての反応速度の良さで無事にクリアできていた。
問題はクエストモードだ。ストーリーのメインルートとなるメインクエストを進めていても、僅かな選択肢の誤りと、情報の入手不足で死に至る。
罠に落ち、毒矢に刺され死亡。
差し出されたお茶に毒を仕込まれ、毒殺。
暗殺者に囲まれて斬殺。
そして、この殺される部分が、また映画のようにリアルな動画で泣けてくる。
ちなみにさっき死んだのは、生き別れの妹と思っていた相手が敵方が雇った殺し屋で、妹を抱きしめたところで、背中から刺されて死んだ。
クエストが失敗すると、選択肢が出てくる。
リセット、リボーン、リスタートだ。
リセットすれば、クエストをやり直せる。リスタートはゲーム自体を最初からやり直す。
問題はリボーンだ。これは課金アイテムを利用して、失敗したクエストを強制的に生き返って進めるための選択肢だった。
由利子は、当然この選択肢を選ばない。ひたすらリセットを繰り返した。
それでもメインクエストは、まだそこまで死亡率は高くない。直ぐに死んでしまうのは、イベントクエストの方だった。
イベントクエストをしなくてもとりあえずメインルートを進むのに問題はないが、報酬が魅力的なのだ。
バトルモードでもHPやMPは上がるが、イベントクエストの報酬で上がる数値は無下にはできない。
更に、他のことでは上がらない、ラッキー値や名声値、特殊アイテムは魅了的だ。
ラッキー値が上がれば、クエストの死亡率も下がるらしい。
攻略サイトでも、序盤で、イベントクエストをこなし、どこまでラッキー値が上げられるかが、ハードモード攻略の鍵だと書かれていた。
とは言うものの、未だクリアしたとの報告は見かけない
「あー、もう今日はやめやめ。また明日にして、寝よ。」
時計を見れば、既に夜中の2時を過ぎている。明日も一限から授業があるのだからもう寝ないと起きれない。
寝る支度を整えて、ベッドに入ると、直ぐに睡魔が襲ってきた。
寝る前にどこかから声が聞こえてきたが、由利子の眠りを妨げることは無かった。
【新規でハードモードでゲームを開始します。第1章、目覚めの章。】
目覚めた由利子は、いつもと違う違和感を感じた。なんだか寒いし、布団も硬い。
目を開けて周りを見れば、壁は廃材を打ち付けたようなもので。所々、隙間が空いている。部屋も狭い。
由利子の部屋はワンルームマンションで広いわけではないが、ここまで狭くなかった。肘をついて体を起こせば、ベッドと思ったものは藁の山で、布団はボロ布だけだった。
由利子はこの景色に見覚えがあった。ついさっきまで楽しんでいた、ゲームのスタート部分だ。
主人公が15歳で始まるゲームは、滅ぼされた国から命からがら逃げ出した主人公が、偶然見つけたあばら家で、久しぶりの眠りを得た所から始まる。
確かにあの場面だ。
由利子は頬を抓ってみた。痛い。
それでも、この現状には納得などできはしない。
ゲーム世界に取り込まれてしまった?
どうしたら、戻れるの?
こんなしょっちゅう死ぬゲームに転生って……
試しに胸元に入っていた短剣で指先を少しだけ切ってみた。
血が一滴、ポトリと落ちた。
現実だ。
しかし、由利子に死んだ覚えはないし、転生もありえない。
現実の自分がどうなったか知る余地はないが、戻るにはどうしたら良いのか、考えなければならない。
指先の血を見つめながら考える。
怪我では戻れない。
では、死ねば?このゲームは簡単に死ねる。
しかし、それが正しくない場合、こちらでの死は、あちらでの死に直結してしまう。
ゲームをクリアする。
これが、イージーモードか、ハードモードか、まだ分からないが、ゲームをクリアするのが一番確率が高そうだ。
由利子は、覚悟を決めた。