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法術大戦  作者: 君川優樹
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4話 歴史修正主義 #ヒストリカル・リビジョニズム


 法都ニルニアの表門に辿り着いたメイジは、門番に法術学院の受験証書を見せた。


 その紙切れをじっくりと確認した門番は、メイジの胸元に顔を近づけて、今度は彼女の法石(コードストーン)の方をじっくりと確認する。


 許可証に記されている法石の情報を実物と照らし合わせて、本人確認をしているのだ。


「カラーはP、カットは……」


 誰の胸元にも存在する法石は、人それぞれで微妙に形や色が異なる。

 具体的には、法石には4Cと呼ばれる4つの基準がある。


 CARAT(カラット)(大きさ)、COLOR(カラー)(色)、CLARITY(クラリティ)(純度)、CUT(カット)(形)。

 

 この4要素は、同じ種類の法石でも100人いれば100人が微妙に異なるので、まったく同じ法石というのは存在しない。つまり、簡易的な本人確認として用いることが出来る。


「メイジ・シュテナフさんですね。通ってもよろしいですよ」

「ありがとうございます!」

「そちらの方は?」


 門番は、今度はルルスの方を見た。


「入門許可証か、それに準ずる物を見せてください」

「いや、それが……」


 ルルスはバツが悪そうに、鼻頭をかいてみせる。


「持ってないんですよね……」

「何も無いんですか?」

「そのー……失くしちゃって」

「えーっ? マジですか、師匠?」


 目が覚めたら五百年後で林の中だったのだから、仕方ないだろ。

 ルルスは心の中で、そんな言い訳を呟く。


 門番は「呆れた」と言わんばかりのため息をついた。


「それでは、お連れの方は入門できませんね」

「いや、門番さん! この師匠が、私のことを助けてくれたんですよ!」


 メイジが、先ほどの教会(チャーチ)の司祭とのいきさつを説明してくれた。


 話を聞くと、門番が他の守衛を呼んで、林の中で伸びているはずの司祭たちを確認に行かせる。出発前に、ルルスが金属の拘束具を錬成して手足に括り付けていたので……まだあの場所か、近くにいるはずだ。


「ということで、何とかなりませんかね……? 師匠が居なかったら、私は今ごろきっと……ひどいことになっていました! 男4人にか弱い乙女の身体を弄ばれ、拉致しては弄ばれ監禁されては弄ばれ、洗脳されながらも弄ばれていたかもしれないんですよ!」

「そ、そんなに弄ばれたかもしれないのか!」

「この流れ、さっきも見たな」


 メイジと門番のやり取りを眺めながら、ルルスがそう呟いた。


 ごほん、と門番が咳ばらいをする。

 仕切り直しだ。


「ということなんですが、どうにかなりませんか……?」

「そうは言ってもですね。話が本当だったとしても……」

「…………教会(チャーチ)は、法国(アダマス)を脅かす最大の敵です!」


 渋る門番に対して、メイジがとつぜんそんな声を上げた。


「師匠は、教会の悪しき司祭を4人も撃退したんですよ! 驚くべき功労! 法都へ迎え入れるどころか、褒賞が与えられて然るべきです!」


 メイジのとつぜんの毅然とした主張に、門番のみならず、ルルスまでもが吃驚する。


「このまま師匠を悪しざまに扱い、あろうことか追い返してしまえば! きっと問題になるはずです! その時には……法都を守る宝石騎士団(ジュエル・ナイツ)から、責任を問われるかもしれませんよ!」

「……た、たしかに」


 メイジの主張に気圧されたのか、門番は兜をずらして目線を逸らす。


「私だけでは決められませんので、もっと上に指示を仰いでみます」


 門番はとりあえず、二人を門脇の詰め所に通すことにした。

 二人を席に座らせると、門番は他の守衛と連絡を取り始めたようだ。


 それを見て、メイジが悪戯っぽい笑みを浮かべて囁く。


「やりましたね、師匠!」

「おお……ありがとうな。ちょっとビックリした」

「なにがです?」

「いや。意外と気が強いんだな、と思って」

「にしし。こういうのはキッチリやるタイプですから」

「紐パンなのにな……」

「それ関係なくないです?」


 とにかく助かった。

 最悪……法都に不法侵入する必要があると思っていたルルスは、一安心して椅子の背もたれに寄り掛かる。


 窓の外を眺めると、そこには表門を通った先の大通りが見えた。


 500年前と比べてそう変わってはいないが、昔よりずっと活気づいている雰囲気がある。

 しかし、表門の正面に建てられている巨大な石像。

 それは、ルルスの時代には無いものだった。


「おや?」


 ルルスはその石像を、まじまじと眺めてみる。


 背の高い、筋骨隆々な戦士の巨像。


 精悍な顔つきに掘られたその石像は、両手に何重にもブレスレットを巻き、首にもネックレスを三種類かけている。ちょうどルルスも、その像と同じようなアクセサリを付けていた。しかし悲しいかな、いかにも英雄然として勇猛に彫られたその像とは、華奢で童顔のルルスは似ても似つかない。


「あの巨像、いったい誰の像かな」


 ルルスはふと興味が湧いて、そう聞いてみた。


「あれですか? 黄金卿ルルスの像に決まってるじゃないですか」

「……えっ? 黄金卿? どこが?」

「伝説そのまんまですよ。忠実に彫ってありますねー! さっすが法都!」


 ……は?

 あれが?

 あれが僕?


 そんな心の声を、ルルスは何とか声には出さずに抑える。


「500年前の法術大戦の英雄! 結社工房(アトリエ)の伝説の頭領(ヘッドメイジ)、黄金卿ルルス!」


 ふふん! と発育の良い胸を張り、メイジが得意げに説明し始めた。


「史実によれば、黄金卿は身長190を優に超す長身。筋肉質で屈強な身体つきに、街を歩けば誰もが振り返るようなハンサム顔だったというお話ですよ! さっすがは伝説の英雄ですよねー!」

「…………へえ、そうなんだあ……」

「そういえば、師匠も『ルルス』って名前でしたね。しかも、ちょうど金剛塊(ゴールド)!」

「そ、そうだね……」


 ………………


 …………


 えええええええっ!?


 ルルスは、心の中で絶叫した。

 なに!? そんな風に伝わってるの!?


 唖然として、自分とは似ても似つかない自分の巨像を眺める。


 僕、身長160前半なんだけど!?

 いくら食べて運動しても筋肉つかない体質なんだけど!?

 25歳でも16歳くらいと間違われてた童顔なんだけど!?


 誰だよこの筋肉ムキムキハンサム顔の像!

 自分のことを黄金卿ルルスだと思い込んでる石像かよ!


 そんな黄金卿ルルスの像だと言い張っている別人の巨像の正面には、それに対比するようにしてもう一つの巨像が建てられていた。


 こちらはルルスの像よりもずいぶん身長が低く、貧相に痩せていて、顔つきも幼い。

 なんというか、圧倒的に覇気の感じられない石像だった。

 けなされるために建てられたとしか思えない、芸術的なイジメの雰囲気がある。


「……じゃあ、あっちの像は?」

「あっちは、黄金卿ルルスが打ち倒した教会(チャーチ)の悪の皇帝! 『太陽皇ジャドー』の石像ですね!」


 メイジが鼻息を荒くしながら、興奮気味に説明する。


「500年前の法術大戦で世界を脅かした太陽皇は、黄金卿よりもずっと背が低くって、体も華奢で顔立ちも良くなかったらしいです! まあ、稀代の極悪人ですから。そういうコンプレックスまみれの人だったんでしょう!」

「そうなんだ……」


 逆だ!!!!


 どっちかといえば、そっちが僕だ!!!


 あの太陽皇の野郎、背はめちゃくちゃ高かったからな!!!

 肩幅とかすげえ広かったからな!!!

 忌々しいことに、顔もすげえ美形だったなあ!! 思い出したくもないが!!!


「これが、歴史が歪められて伝わるということか……」

「ん? どうしました、師匠?」

「いや、なんでもない……」


 あまりに好き勝手に伝わっている伝説に、ルルスは空恐ろしい気分になる。


 500年も経てばなあ……。

 当時生きてた人なんて誰もいないんだから、いくらでも都合よく伝わるよなあ……。

 いやこれが僕かあ……。

 ルルスは死ぬほど美化された、もはや他人の像にしか見えない自分の石像を眺めて、微妙な気持ちになる。


 歴史にめちゃくちゃ名が残っているようで、嬉しいのやら、悲しいのやら……という感じだ。


「そういえば。師匠ってさっき、司祭に『この俺が黄金卿だー!』とか言ってましたけど。アレって何だったんですか?」

「あれは……威嚇だよ。威嚇」

「なかなか無いタイプの威嚇ですね」

「それか意気込みだ」


 そんな風にしてメイジと一緒に詰め所で待っていると、しばらくしてから扉が開かれた。


「…………」


 入ってきたのは、銀甲冑姿の女性騎士だ。

 厳しげな表情をした女性騎士は、席に着いているルルスとメイジを見つけると、板金鎧をガッチャガッチャといわせながら歩み寄って来る。


 その途中で窓の光が差し込み、彼女の胸元に覗く法石が輝いた。

 緑色に輝く法石……翠宝玉(エメラルド)


「あなたが、許可証も持たずに法都に入門したいという青年ね」


 ルルスの前に立った女性騎士は、冷たい調子でそう言い放つ。


 彼女の腰に差されているのは、騎士の剣ではなく、鉄製の戦闘扇子(バトル・ファン)だった。

 それはただの鉄扇ではない。先端に棘のような突起を備えて、骨部の片側は鋭利な刃になっており、さらに鉄製の骨を束ねる(かなめ)が、歯車のような複雑かつ大ぶりな形をしている。それは近接武器として用いながら、扇ぎ振るうことによって複雑な気流を生み出すことができる機構(メカニズム)が組み込まれているためだ。


 風と気流の法則を司る、翠宝玉に特有の武装。


「そうですが……」

「着いてきなさい。お連れはここで待っているように」


 メイジを残して、ルルスは女性騎士と一緒に別室へ通された。


 詰め所に連結された小部屋は、小さな窓が一つあるだけの圧迫感のある空間。

 おそらく、尋問か何かに使われる部屋だろう。


「向こうの壁に、背中を向けて立ちなさい」


 厳しい調子でそう命令されて、ルルスはその通りにした。

 奥の壁に背を向けて立ち、狭い室内で女性騎士と対面する。


「私の名前はツヴァイ。法石騎士団(ジュエルナイツ)所属の、判事級騎士(ジャッジ・ナイト)


 ツヴァイと名乗った女性騎士は、ルルスにあくまで冷たい眼差しを向けている。


 彼女が身に着けている銀色の騎士甲冑は胸元が開いていて、彼女の大ぶりな胸の上部と谷間がはだけた形になっていた。それは性的に誘惑する目的でそうなっているのではなく、胸元の法石を晒すためだろう。


「入門を許可するかどうかは、私が判断します。まずは、その場で服を全て脱ぎなさい」



少しでも続きが気になる、と思ってくださいましたら!


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それではまた、次回更新で!

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