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法術大戦  作者: 君川優樹
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11話 手品 #マジック


「なるほどな」


 ルルスは復活した世界で疑問に思いまくっていた、極めて破廉恥極まりない服飾文化に納得がいった。


 紅貴石や蒼水晶の法術は、その初歩段階では歪めた法則に身体がついて行かずに、様々な身体症状を呈する。熱を操作する紅貴石ならば発汗機能や体感温度に異常が現れ、蒼水晶ならば寒冷症といった具合に。


 その辺の症状に対応できない法術の初級者に限れば……メイジのような、一見卑猥で機能性の欠片も無さそうな服装というのは、一応は理に適っているのだ。いわゆる法石障害という奴だが、それに対応する技術すら失われてしまったということか。


 しかし……500年も経ったっていうのに、その辺りの基本的な知識すら未だに補完できていないというのは、一体全体どういうことだ?


 長い平和ボケのせいで、進歩が遅かったと考えるにも限界がある。

 事実、あのツヴァイという女性騎士の甲冑に使われていたアルミニウム板金などを見るに、一部の技術は500年前よりもむしろ、順調に進歩している気配すらあるのだから。


 これは、他にも理由がありそうな気配があるぞ……。


「受験番号……ルルス君、ルルス君?」

「師匠! 順番ですよ!」

「えっ?」


 完全に自分の世界に入っている間に、いつの間にか実技の順番が来ていたらしい。


 メイジに背中を叩かれてやっと思考世界から帰って来たルルスは、せっつかれるようにして会場の中心へと歩み出た。


 会場にはいつの間にか人の輪ができていて、その開けた空間で法術の実技を行うようだ。

 正面と思われる方には採点役の職員が並んで立っており、彼らに見えるようにして法術の操作を行えばいいらしかった。その中には、先ほど嫌みを言ってきた職員の姿もある。


「準備が出来次第、法術を開始するように。どんな物でも構いませんので、全力で取り組むこと。以上」


 そのように指示されて、ルルスは握っていた鉄塊を見つめる。


「…………」


 ……周囲の目線を嫌に感じる。

 おそらく誰でもそうなのだろうが、自分はその中でも珍しい、金剛塊(ゴールド)の金属系の法石。

 注目度は、自ずと高まっているのかもしれない。


「さてと」


 どうしようかな、とルルスは考える。


 自分の前の連中の法術を見ておいて、大体のレベルを把握しておけば良かったのだが……自分の世界に入っていたおかげで、平均的な所がまったくわからない。とにかく間違いなく合格するように、ちょっとレベルが高めのことをしておけばいいだろう。


「受験番号……ルルス君? 早く始めなさい」

「あ、すみません」


 また考え込んでしまった。

 待たせるのも悪いし、パパッと済ませるか。


 手の平に置いた鉄塊を、スッと空中へと浮かせる。


 一旦組み替えるかな。

 いや、あんまりにも複雑に組み替えると流石にヤバそうだ。

 ただでさえ技術レベルが低いみたいだし。


 空中に浮かせた鉄塊を一旦粉々にして粒子状にすると、それを何に変化させようかと一瞬悩んでから、組み直してダガーのような形状に固定した。

 質量自体が多くないので、あまり大きい物にはできない。

 刃物ならば……あくまで刃物っぽい物ならば、質量は少なめでも問題がない。


 とりあえず形成してみた、雑にもほどがある鉄のダガーっぽい物を眺めて、ルルスは一息つく。


「ふむ」


 まあ……こんなもんでいいんじゃないのか?

 こんな雑な刃先では何も切れないだろうが、鉄製のダガーっぽくは見えるだろう。


 分解と構築と変形。

 金属操作の基礎中の基礎。

 これくらい、金剛塊ならどんな術者でもできる。


 逆に出来ない奴がいたとしたら、そいつはどうやって剣やダガーで武装した敵と戦うつもりなのだ。暗殺とかで急に刺されそうになったとき、瞬時に敵の剣を刃こぼれさせたり、分解破壊できないと死ぬだろ。刺されるだろ。

 金剛塊の金属系の基本的な強みとは、金属武器を完全無力化できる所にあるのだから。


 基礎も基礎であるわけではあるわけだが、採点官が落胆したような表情をしていたら、追加で何かしてやればいい。


「こんな感じで良いですか?」


 そう聞きながら、ダガーっぽい形の鉄を握って採点官の方を見る。

 しかしそう聞いてみても、採点官は微動だにしなかった。


「…………」


 やっぱり……これだけ? って思われているかな。


 ルルスは手に握っていたダガーをもう一度粒子状まで分解すると、また元の鉄塊の形に戻す。

 といっても。完璧に元の形状を覚えていたわけではないので、大体で。


「……こうで良いですか?」


 もう一度聞いてみる。

 すると、採点官はようやく、口を開いた。


「……今、何をしたんですか?」

「……え? 法術ですが」

「ですから、それを聞いているのですが」

「いや、ですから……」


 何を聞かれているのかわからず、不毛な問答が始まろうとしていた。


 そこで、周囲の受験生たちの声も聞こえ始める。


「……今、何したんだ?」

「わかんないけど、一回バラバラになったように見えたよね……」

「金剛塊って、ああいうことできるの?」

「えっ。もしかして、採点官もわかってないんじゃない?」


 ん?


 ズカズカと採点官達が歩み寄って来る。

 ルルスが呆気に取られていると、彼らはその手から鉄塊を奪い取って、何かを言い合い始めた。


「誰か、この鉄塊をチェックしろ」

「実技の不正が行われたかもしれないぞ」

「金剛塊の教員を呼んでくれ」

「どういう手品だ?」


 …………。


 えっ、マジで?


ゆるゆる更新だよ~!

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― 新着の感想 ―
[一言] 金剛塊の金属系がボロクソに言われてましたが、担当教員は肩身が狭そうですね。 というか、教員レベルですら何が出来るか不安になってきました(笑)
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