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【コーヒーミル】  作者: 藤村綾
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 ホワイトデー

 おもてに出るとすぐにくしゃみが反射的にでてしまう。鼻の奥がくすぐったくなって異物が混入した感覚がある。チョコや飴を舐めているときにもそのような事態になることもあるから花粉症もありそういうたちなのかもしれない。

 なおちゃんはそうゆうアレルギーっぽいのはまったくない。「おんなあれるぎー」などとおどけたことを口にしたこともあったけれど、会社でバレンタインの日。たくさんチョコをもらってきた。

 中には見るからに『本命』をうがかわせる品があった。手作りだったのだから。

「義理だしね。こうゆうのお返しが大変だからさ、くれない方がいい。めんどくさい」

 もらってきたチョコはばさばさと無造作にテーブルの上に置かれた。手作りの人のチョコも。手作りだと教えてあげたら、わ、こわっ、食べれない、と、声をふるわせた。なので、見ないで捨てた。

「捨てといて」そう、命じられたので。トリュフの形のしたものが4つかわいらしい(包装の方が高そうにみえた)箱に並んで入っていた。まさか、あげた人はチョコがゴミ箱いきだなんて露とも思ってはいない。

 かなしそうな泣き声がゴミ箱から今にも聞こえてきそうであたしはなるたけ奥の方にほおった。


 ホワイトデーのお返しを適当に10個くらい買ってきて欲しい。火曜の夜。なので12日の夜、ご飯を食べているときにとうとつにいわれた。はい、財布から一万円を差し出しながら。

「え、適当でいいの?」

「うん」

 あたしのぶんはないのかな。とはいえなかった。多分ないので。去年も一昨年もなにもなかった。ただ、上等な肉を買ってきて焼いて食べた。

「わかった」

「うん」悪いね、なおちゃんは、まったく悪いねなんて思っていないのにいちおういっとくか的にいう。 ただし、おつりはもらう予定だ。

「そういえばさ、今日さ、夏目くんが昼飯の時間間違えて10時の休憩に昼飯食べちゃったんだよ」

「やだぁ、うけるぅ」

 ははは、あまり笑うことが少ないのでささやかなことでも笑えるようになっている。きっと、今、箸が落ちても笑うに違いない。

 会社でのなおちゃんはさぞかっこいい上司なのだろう。うちでは想像もできないけれど。手作りの人はなおちゃんに気があるのだろうか。

 だってあたしという存在を知らないのだから。手作りの人は片思い。

 それは立派な恋で最高な出来事。相手のことなど考えなくていい利己的な恋。

 あたしの中でもまだたくさん片思いの部分がある。もう、3年も一緒にいるのに。恋はまるでわからない迷路のようでいつだって右往左往している。

「もうすぐ、桜が咲くわ」

 窓越しに歩んでゆき、そうっとカーテンをあける。もう水滴はついてはいない。部屋とおもての温度差がそんなに大幅に変わらなくなったのだ。

「温度差がなくなったみたい」

 夜の空を見上げる。今夜の月はほとんどかけていて細い線を描いている。弓のように。あるいは細い目のように。

「お風呂入る」

 背後から椅子のひく音がガガガガとして空気が動くのがわかる。すたすたと浴室に消えていった気配と感覚を残しているだろうテーブルの方を振り返ると、そこには大きく椅子がひかれている不在のなおちゃんの残層が残っていた。



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