崩壊のはじまり
『どうしたの?急に呼び出したりして』
少し嬉しそうな表情で吐き捨てる。少し皮肉で、黒い気配が余計目立つ。目を化け物のように輝かせ、彼女の中にある『それ』に目掛けて牙を剥く。
「お前、神っていると思うか?」
自分でも驚くような質問を、きみかに問いかけた。きみかは一瞬驚き、僕を見つめてきた。
『慶介らしくない』
そう呟き、腕を組み、怪しく呟く。
『あたしは神なんか信じない。だってそうでしょ?じゃなきゃ…』
悲しそうな顔で、呟いた。
きみかは、鞄を持ち替え『話はそれだけ?』僕に問いかけた。僕が無言で頷くと、呆れたような表情で、僕の元から去っていった。
何故あんな事を聞いてしまったのか、自分でもよく分からない。自分の口から『神』と言う言葉が出た事に驚いた。
(あの文面を見てから何か変だ…)
誰かにマインドコントロールされているような感覚が全身に漂い、僕の意思とは関係なく働きかける。忘れようと思えば、思うほど、僕の脳細胞が痙攣し『それ』を求めるように這い蹲る。
(きみかを怒らせちゃったな)
きみかの呆れ顔を思い出した。きみかにとって『神』は追い詰めるだけの存在。あいつに何があったなんて分からないが、あいつは僕以上に『神』と言う言葉に過剰に敏感だ。
『神』を口にすると、あいつは決まってこう言う。
『神がいるのなら、何故大切なものを奪っていくの?』
僕もそう思う。神なんかいない。そう言い聞かせている。
(ごめんな…きみか)
あいつを追い詰めた。僕の言葉でまた一つ傷ついた。表では強く見せているけど、本当のあいつは違う。あいつが裏でどんな苦労をし、自分を犠牲にして生きてきたか、僕は良く知っている。
(なのに僕は…)
少しの罪悪感が胸を掴んで離してはくれない。片方の手で、僕の首を掴み、握りつぶそうとする。
なのに…。
どうしても頭から離れてはくれない。あの文面、頭に絡みつく。
両手で頭を押さえ、唸り声をあげた。
「うう…」
誰もいない空間の中で叫び続けた。
「うわあああ!」
喉を絞り、声を出すと、涙が溢れた。ポタリと頬を伝い、地面に流れ落ちた。