十二年前の真実
十二年前の七月九日――
棒工場の地下から巨大な爆発が生じ、一万人の命が奪われる。不可解な事に、その半数が『子供』だという事実が判明し、この爆破との関連を調査中。
奇跡的に生き延びる事が出来た数人の証言から、テロの可能性もあると思われる。
『奇跡的に生き延びた数名の一人、俺の事なんだ……』
爆破、テロ?
十二年前の七月九日。
僕が『あの牢獄』を脱出した日時と重なっている。これは偶然か?確かあの時、雄介に言われるまま、色々な箇所に爆弾を設置していったような気がする。奴らの目を盗み、自由の世界へ足を入れた瞬間、雷鳴のような地響きが連続的に鳴り始めた。
泣き叫ぶ声、苦しみもがく人混みの中で、僕達は『それ』に目をくれず、自由を手にした。鼓動が走り、嫌な考えを出すような空気の流れが気に入らない。
そんな訳はない、と自分自身に言い聞かせながら、宮戸の言葉に耳を傾ける。
『でも、な。その後遺症で声が出なくなった。そして家族を失った……つらかった、悲しかった。でもな、どうしてもやり遂げないといけない、だからどんな事にでも耐えてこれた。……しかし驚いたよ。慶介が俺の立場に立ってるんだからな』
クスクス笑う悪魔。
今まで見てきた悪魔は、こいつに比べたら小悪魔の悪戯にしか過ぎなかったって事か……。
『なぁ野洲、いや慶介と呼んだ方がいいかな?』
何故名前を知っているんだ?野洲と言っただけで慶介と名乗っていないのに。驚きによって、頭の中の色が薄くなり、どうしたらいいのか、どんな態度を見せればいいのか分からず、その場に立ち尽くすしかなかった。
『あの時の爆破、お前と雄介の仕業だろう?……全部知ってる。お前が研究所から逃げ出した事も、養子として生きてきた事も、人間関係も、全てな』
人間関係という言葉を聞いて、パッと光が差し込んでくる感覚を味わいながら、脳に描かれている資料の内容を確認していく。雄介が男と取引を行っていた場所に放置されていた段ボールの数々。溢れかえる資料の数々。僕の周りの人間図……。
もしかすると、あの資料を集め、影で操っていたのは宮戸なのか?僕と変わらない年で、ここまで純粋で、美しい瞳の持ち主が首謀者?
『今となってはどうでもいい事。お前が『それ』さえ渡してくれれば、命は見逃してやるよ。そしたら手下にしてやってもいい。俺よりも色々な事を知っているみたいだしな』
一段も、二段も上から見下す宮戸の言葉が、怒りを刺激していく。技術も頭脳もいいかもしれないが、こんな中身のない人間など、ただの人形でしかない。自分では何も出来ず、人を使う事しか脳のない下級の動物でしかない。
誰がお前みたいな器の小さい奴に、命を注ぎ込む?そんなの嫌だね。そんな事をする位だったら、お前を憎みながら、この世を去るよ。
『何だ。その目は。今の状況分かってんのか?』
煩い。
胸を突きあげ、もどかしさが膨れ上がる。堪える事など出来ない怒りが脳膜をぶち破る。
「うるせぇなぁ。人を使うしか脳のない奴に言われたくないね」
『お前、声が……』
「生憎さま、あんたのおかげで治ったみたいだな。ありがとう」
憎たらしい笑みを浮かべ、奴を挑発する。怒りを感じ、ただ感情のままにいってしまうと自爆しかねない。それに、こんな奴の為に、感情を曝け出すなど更々ない。
「お前『これ』が欲しいのか?」