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壊命  作者: 綾 瑜庵
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ゲス野郎な僕


 果てしない思いの中で始動しようとしている鼓動が、僕に勇気を与える。どんなにつらくても、悲しくても、自分を支える事の出来る『魂』が僕の中へと移り、言葉を(たく)した。


 夢の中で見た光景(こうけい)が脳裏を通過し、(そら)へと注がれていく。そんな不思議な自然現象の中で、僕を呼び続ける声がした。


 ≪お前なら……大丈夫。きっと……≫


 温かい手に守られるように包まれていく僕の心に(きざ)しが見え、誰よりも、何よりも輝き続ける。


 カチッカチッ。


 夜明けになる頃、部屋を抜け出し、この空間に訪れた。明け方のおかげか、誰もいない事に感謝。


 ライターの()る音が響き、闇に明かりを照らし、口に(くわ)えて待ち構えている煙草(たばこ)に火を点ける。先端に微かな光がぼやけ、たちまち大きな煙を作り出し、外に吐き出す。


 煙草の灰を気にかけながら、そのままの状態で一時的に放置し、ハンドライトで機械の順序を確認していく。


 外見(そとみ)は難しそうな構造で作られているように見えるが、内部の設計図と照らし合わせながら、(はじ)き出すと簡単な答えに辿り着く。


 あの時以来、目にする事のなかった『死』に最も近い封筒を掴み、ピリピリと封を開けていく。


 赤い色で(おお)われている物体を手に取り、握り締めると、ヌルリと滑って指から滑り落ちる。黒く染まっている床に、ライトの光を照らし、その物体を探し出す。それから避けるように隠れ続け、闇に溶けていこうとしている。


 そうはさせるか……。


 床の板をもぎ取り、阻止する。逃げ場を失い、立ち尽くすそれ(・・)は、微かな潤いと恐怖に包まれながら、僕の(てのひら)の中へとおさまった。


 よく見ると、赤い色をしているのではなく、赤い(すす)のような、そうでないようなものに包まれている事に気付き、何なのか考えてみた。


 あの『ヌルリ』とした感触は僕の勘違いじゃなかったんだ。強張っている手を広げ、確認すると、未練を漂わせながら、僕の皮膚に赤い血のようなものがこびり付いていた。


 ドクン、と激しい動機が奏でられながら、再び崖へと堕とされていく。嫌悪感の重圧が、心臓を(えぐ)り、動くたびに力を入れる。


 ――まるで息の()を止めるかのように……。


 カタカタと震える中で、あの瞬間の映像が飛び散る。

 ドス、と鈍い音の中で、微かに笑い続ける道化師(どうけし)の姿。


 何かを(あわ)れむように、永遠の眠りへと入り込んでしまった魂の欠片。微かに聞こえた声。


 ≪大丈夫……お前ならきっと……乗り越えられる≫


 お前が言うから心配ない……。

 不安や恐怖を拳の力で抑え込み、ただ精神を集中させる。迷いも、恐れもあって当然だ。全て完璧に勤めようとしていた僕は、何も分かっちゃいないゲス野郎だ。

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