本当の僕
僕の顔を見ながら、思いつめたような表情のしおりを見て、胸騒ぎを覚えた。もしかしたら、僕のせいで、雄介やきみかのようにマインドコントロールに掛かってしまったのかもしれない。
抑えきれない悔しさが内部のつり橋を潰し、僕の修復されつつあるものが、再び崩れだそうとしている。
何も出来ない、自分を保つ事も、人を守る事も……。
目を瞑り、自分を責め続ける。その度に、少量だが汗が全身を包んでいく。
『慶介くん、どうしたの?』
『慶介くん』と言う叫び声が現実へと舞い降り、僕を正気にさせる。
『大丈夫?気分悪いの?』
ううん、大丈夫。
声に出そうとした瞬間、顔を顰める。言葉と奏でる僕の声は、出ない。愛しい女の前で、楽しく笑い合うなんて出来ない。出ない言葉を口で動かし続けるという『恥ずかしい行為』を見せてしまったら、しおりは僕から離れていく。
――それだけは嫌だ。
格好つけてると言われても、無愛想だと思われてもいい。真実を隠し続ける……。
『慶介くん?』
しおりの心の籠った問いかけから逃げるように、無言で俯くしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
電気の明かりも点けず、ただ暗闇に飲まれる事を望み、布団にくるまれている。
しおり不審に思った。
絶対、傷つけた……。
喜びもつかの間、再び後悔に飲まれ、シュンと萎んでいく。
……僕、こんなに弱かった?
以前はもっと余裕があり、冷静沈着で、周りの人間と一定の距離を置いていた、この僕が……。
パニック症状から逃れる為に、服用するように、と太鼓判を押された薬を飲み、不安を掻き消す。
僕は弱くなどない。
……強いんだ。
何かに縋り付くように、両手で顔を覆い、現実世界の視界を封印した。堂上の死から、見えていく『本当の恐怖』が僕の心と体を喰い滅ぼし、全てを乗っ取ろうと企んでいる。
『慶介?』
何の姿も見えない。
……僕の様子を伺いに来たのだ。
『慶介……どうしたの?何かあった?』
プチッとスタンド電気の明かりを灯すと、闇に隠れていた『本当の僕』の姿が露わになった。
『泣い……てるの?』
首を横に振り、否定し続ける。
見ないでくれ……。
こんな僕を……。
もう、うんざりだ。
そんな言葉が浮かび続け、苛立ちながら、音の出ない声を必死で出そうとする。
――なぁ、何故、僕の声は出ないんだ?
虚しい問いかけだけが流れ続け、余計、惨めな自分を晒してしまった。そんな僕の頭に温かい日差しが照らされ、僕の心のモヤを振り払ってく。
人の体温が、ここまで温かく、心地よいものだと、改めて実感した。




