PC
パソコンの電源を入れ、ホッと溜息を吐いた。黒い画面が一瞬輝き、僕の目に激しい光を浴びさした。目に刺激を与え終わったら、何もなかったように無表情で普段の画面に戻った。青い光が果てなく続き、少し憂鬱になった。
カタカタとキーを打つ音が沈黙の中で響く。パスワードを入れ、インターネットに繋いだ。
(色々あるけど、どれもぱっとしないなぁ…)
色々な項目を見て検索しているが、中々僕が好むようなものはなかった。
次も、次も、同じようなものばかり。
手の動きが止まり、画面を凝視した。
『暗闇の中で、彷徨い続ける』
黒い背景の中で白い文字が怪しく光る。ゴクリと唾を飲み込み、マウスを文字に合わし、ダブルクリックしてみる。
マウスを動かし、文面に食らいつく。
≪本当の美しさとは、人間の中にあるものだ。例えどんなに外見が美しくても、皆から好かれていても、それは本当の美しさではない≫
コップに入っている氷がカランと音を鳴らす。
≪目を閉じ、それを感じる事が大切だ。人間の中に入り込んでいる、誰もが持ち合わせている黒く沈んでいるものを探す≫
僕は目を閉じ、意識を集中させ、その文字の通り『それ』を手探りながら探してみる。何かが僕の耳元で囁きかけ、フウッと息を吹きかける。僕は一瞬身震いし、それに身を任せる。
≪それを掴んだ時、頭の細胞がそれを欲し、あなたの意識とは関係なく自分の身体の一部に取り込もうとする≫
目を開けようと思っていても、瞼に魔法がかかったように重く、開ける事が出来ない。
≪瞳を開ける事など容易い事。しかし、どこかで受け入れようとしている人にとっては、難しい事だ≫
頭にグルグルと画面の文字が浮かび、僕の頭から離れようとしない。
≪受け入れた時、瞼が開き、自由の身になる。そしてあなたの心にある深い美しさが、あなたの心をさらに輝かせるだろう≫
頭がボーッとする。僕は頭を抱え、パソコンの電源をつけたまま、ベッドに倒れ込んだ。
まるでドラックをしているような痺れ、気持ちよさが体中を駆け巡り、支配する。意識が徐々に薄れ、果てしない眠りへと導く。別に眠い訳じゃないのに、目が重い。体中の力という力が抜けていくのが分かる。
『これでいい………』
誰かの声が聞こえた。
身体をねじらせる。頭痛の痛みに耐えれず、近くのコンクリートを殴った。普通なら痛みを感じるはずなのに、僕の右腕は真っ赤に染まるだけで、痛みを感じる事はなかった。何度も何度も試してみたが、結果は同じ。
自分の右腕を見つめ、傷跡をペロリと舐めてみる。
微かに鉄に似た、血の味が舌の上で転がり、僕の神経を鮮明に動かそうとする。痛みを加えるたびに、激しい頭痛が蘇る。
『助けて』
そう叫び続ける幼い少年が立ちふさがり、僕に手を伸ばす。目から大粒の涙が流れ、傷跡を癒すように、流れ落ちた。
目を見開くと、少年は優しそうな顔で見つめ、言った。
『痛みに、逃げようとしないで…』
そう言い残し、砂のようにサッと消えて行った。
完璧に消える瞬間、彼が微笑んだような気がした。
「…………」
黒い世界が僕を包む。
僕の手に、足に、腕に、顔に、身体に纏わりつき、僕を狂わす。
『負けないで』
耳元で囁き声が聞こえてきた。