パーツの破損
眠気が薄れ、変に頭が軋む。頭を抑えながら、喉に引っかかっている薬を流す為に、水を含む。時間を見ても、周り様子を見ても、ここが何処で、あれからいくら時間が経ったのかさえ理解出来てない。
『やっと起きた。何、言っても返答しないから心配してたのよ』
言葉とは裏腹に、全然心配などしていないようにように見えるのは僕だけ?そんな疑問に気付かない中江は、あっさりした口調で話を次々に進めていく。
寝起き状態の僕の脳は、中江の言っている言葉を捉えれず、混乱状態へと陥る。
「頭、ボーッとする」
『無理もないわ。貴方、丸三日も眠ってたんだから』
中江の言葉を聞いて、驚いた。
三日も寝た感覚など全くしない。
身体のだるさは染みついているが、変な感じ。
「ここは?」
辺りを見渡すと、全ての物が白く統一されているのが分かる。
『病院よ。あたりの知り合いの』
「へえ……」
黒いものなど、感じさせない清らかな空間の中で広がり続ける空虚さ。魂がフワフワしていて、今すぐにでも何故か遠くへ飛んで行ってしまいそうだ。
『貴方も起きたことだし、あたし帰るわね。一人で大丈夫?』
「ああ……」
薄い光の宿った黒い瞳が寂しく問いかけてくる。
本当に?
大丈夫じゃない癖に……。
魂の叫びを察知しているのかもしれない。悲しいと言えば悲しいのだけど、何かが違う。
◇◇◇◇◇
透き通った青の中で、泡を吐きながら包み込んでいく温度。僕はその中心にいて、その生物の傍らになろうとしている。
巨大に続く海。
溢れ狂う感情。
何て説明したらいいのか分からないけれど、そんな言葉が、頭の中をグルグル渦巻いている。僕の心の叫びが届いているのなら、反対に中江の心の叫びも他人の心に届いているのだろうか。
『あたし、やっぱ、。もうちょっとここにいる』
「何で?」
『何でって……』
言葉に詰まる中江の姿が視野に揺れる。大きく揺れて最後は散り行く。心配などされたくない。
そう言えば、中江との心の距離の感覚を、今まで以上に突き放す事になる。それでもいいけど……一度相棒になってしまった僕には、それは絶対的に許されない行為なのかもしれない。
一番逃れやすい言葉を選び、中江に突きつける。
そうすると、言葉を一言も発する事もなく、静かに病室を出ていく中江の姿が浮かぶ。
シナリオを完成された僕の心は少し輝きを取り戻す。
一瞬だけだけど……。




