表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊命  作者: 綾 瑜庵
68/84

パーツの破損



 眠気が薄れ、変に頭が(きし)む。頭を抑えながら、喉に引っかかっている薬を流す為に、水を含む。時間を見ても、周り様子を見ても、ここが何処で、あれからいくら時間が経ったのかさえ理解出来てない。


 『やっと起きた。何、言っても返答しないから心配してたのよ』


 言葉とは裏腹(うらはら)に、全然心配などしていないようにように見えるのは僕だけ?そんな疑問に気付かない中江(なかえ)は、あっさりした口調で話を次々に進めていく。


 寝起き状態の僕の(パーツ)は、中江(なかえ)の言っている言葉を(とら)えれず、混乱状態へと(おちい)る。


 「頭、ボーッとする」

 『無理もないわ。貴方、丸三日も眠ってたんだから』


 中江(なかえ)の言葉を聞いて、驚いた。

 三日も寝た感覚など全くしない。

 身体のだるさは染みついているが、変な感じ。


 「ここは?」


 辺りを見渡すと、全ての物が白く統一(とういつ)されているのが分かる。


 『病院よ。あたりの知り合いの』

 「へえ……」


 黒いものなど、感じさせない清らかな空間の中で広がり続ける空虚さ。魂がフワフワしていて、今すぐにでも何故か遠くへ飛んで行ってしまいそうだ。


 『貴方も起きたことだし、あたし帰るわね。一人で大丈夫?』

 「ああ……」


 薄い光の宿った黒い瞳が寂しく問いかけてくる。


 本当に?

 大丈夫じゃない癖に……。


 魂の叫びを察知しているのかもしれない。悲しいと言えば悲しいのだけど、何かが違う。


 

 ◇◇◇◇◇



 透き通った(くうかん)の中で、泡を吐きながら包み込んでいく温度。僕はその中心にいて、その生物の(かたわ)らになろうとしている。


 巨大に続く海。

 溢れ狂う感情。

 

 何て説明したらいいのか分からないけれど、そんな言葉が、頭の中をグルグル渦巻いている。僕の心の叫びが届いているのなら、反対に中江(なかえ)の心の叫びも他人の心に届いているのだろうか。


 『あたし、やっぱ、。もうちょっとここにいる』

 「何で?」

 『何でって……』


 言葉に詰まる中江(なかえ)の姿が視野に揺れる。大きく揺れて最後は散り行く。心配などされたくない。


 そう言えば、中江(なかえ)との心の距離の感覚を、今まで以上に突き放す事になる。それでもいいけど……一度相棒になってしまった僕には、それは絶対的に許されない行為なのかもしれない。


 一番逃れやすい言葉を選び、中江(なかえ)に突きつける。


 そうすると、言葉を一言も発する事もなく、静かに病室を出ていく中江(なかえ)の姿が浮かぶ。


 シナリオ(・・・・)を完成された僕の心は少し輝きを取り戻す。


 一瞬だけだけど……。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ