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壊命  作者: 綾 瑜庵
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最後の言葉 堂上視点


 微かな叫び声を元に生き続けた。どれが真実で、どれが(いつわり)なのか分からずに、理解しようとせずに……。


 君が絶命する直前に流れ込んできた(ボイス)が俺を支えてきた。

 君がいたから『強い堂上(おれ)』として生き抜く事が出来た。

 

 ――でも、もう限界だ。


 君に掴まれた心が音を立てて、グシャリと生命(いのち)を失いかけている。


 ――後数時間……。


 それだけの時間で、一体何が出来ると言うのだ?

 ……君の『(かたき)』をとる時間さえも、与えてくれないのだろうか。


 『いいのか?本当に……』


 何も言えない。作り上げてきた言葉が闇に包まれ、消滅していく。

 ……何も言う事はない。


 目を瞑り、全身に力を込める。怖くなどないのに、体が震える。時間が経つにつれ、俺は弱者(よわむし)へと堕ちていく。


 『NW(そしき)』の奴らが憧れていた『強者(ばけもの)』は姿を消し、堂上(おれ)は永遠に眠り続ける。自分が誰であるのか、何の為に生きてきたのか、その理由を掻き消し『無』に戻る。


 「堂上(おれ)はもうじき死ぬ。医者にもって二か月だと言われた」


 誰にも決して言わなかった言葉を言う決意が出来たのは慶介(この男)のお陰。

 それを聞いた男は動揺し、優しい震えにかられていた。


 そんな奴に『釘』をさす為に、胸の奥底に閉まってくれると約束させた。


 ――絶対、誰にも言うな、と……。


 俺の最初の最後の我儘だ。


 悲しそうで、寂しそうな瞳を見ると、決意が崩れてしまいそうで怖かった。だからといって、自分で決めた言葉を覆す事など出来ない。


 ……俺だって死ぬのは怖い。


 自分が死ぬと告げられた時、夢の中でいるような感じがしてた。これは夢なんだと。『死にぞこない』と言われたこの俺が、この世から消滅するなどと、考えつかなかった。


 『怖くないのか?』

 「……」


 怖くない、なんて訳ない。でも、これは俺の最後の姿。決して弱さを出してはいけない。

 

 「怖くなどない」


 そう口にした瞬間、優しい空気が俺を包み上げてきた。懐かしい匂いと共に、薄れ()く記憶を浮かべながら、最後の言葉を告げる。


 「今から、お前(・・)のとこに逝くよ」


 愛してる、なんて口にしたくない。この言葉は、君と再び出会えた時に(ささや)くのだから……。


 ドーンと破裂音の中で見えた幻。赤い涙に抱かれながら、永遠の命を手に入れ、新しい俺に生まれ変わっていく。


 だから待ってて。

 絶対に。


 ――俺達(ふたり)はずっと一緒だ。

 


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