遠吠え
『言葉』と聞いて作動し始める。キュィィーンと歯医者に置いてある機械のように音を立て、スイッチをオンに切り替える。自分ではない『それ』を望んでいないのに、気持ちと反対に、体が言う事を聞かない。
お願い 止めて 伝えて 貴方しか いない……。
海の中を泳いでいるような違和感を感じながら、声に身を、心を任せ、僕は無へと入口へと入っていく。
≪大切≫
≪ずっと≫
≪貴方だけ……≫
≪永遠に……≫
≪貴方だけ……≫
≪愛する≫
≪……愛してる≫
そう口挟み、次々へと心を言葉にしていく。
含み笑いをし、まるで全てを知り尽くしている熟年の老人のような口調で続ける。女性の記憶を辿りながら、全ての状況を口にしていく僕を見て、気味がりながらも、耳を傾ける宮戸の姿が僕を通して、女性の心に焼き付いていく。
人間として生きる術を失い、自分の肉体と共に、滅ぶ事を望んでいる女性の瞼に明るい何かがが降りかかった。
赤い泡が自由の扉を開き、僕の中に入ってきた女性を波の如く攫っていく。汚い汚水から守るように、抱きすくめながら、僕から出て行った。
「僕もお前と同じさ。ある人に言葉、彼女の心を伝えなきゃいけない。厄介な事に発展する前にね」
そう、食い止めなくては。
堂上は汚れちゃいけない。
彼女を悲しませてはいけない。
(絶対に……!!)
「宮戸手伝ってくれるか?」
≪うん≫
素早く答えを出した宮戸の志に、負けているような感覚に囚われ、憂鬱な気分が押し寄せてきた。
それを打ち破るかのように、大声で吠えた