表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊命  作者: 綾 瑜庵
63/84

口調の変化


 インクが(にじ)み、本来の姿を変える。迷路みたいに複雑で、理解不能な設計図を眺めながら、溜息を吐く。


 ≪何を見ているの?≫


 不思議そうな顔で、後ろから覗き込んでくる。一瞬退()くと、笑い声甲高く響かせながら、僕の背後から正面へと回ってきた。


 「宮戸(みやと)か……驚かすなよ」


 フウ、と案著(あんちょ)を吐かせ、再び紙切れに視線を置く。


 ≪見た所、機械の設計図だね≫

 「うん……」

 ≪何故、こんなもの見てるの?≫


 こんなもの(・・・・・)と言う宮戸(みやと)の不意な言動が怒りの先端へと僕を突き落とす。抵抗する事もなく、ただ感情的に勤めてしまう。


 「僕にとっては大切(・・)な資料なんだよ」

 

 宮戸(みやと)にも分かるように、少しきつめの口調で説明すると、いかにも『まずい』という表情(かお)を表面に出し、僕の反応を確かめるように言葉を選択し始めた。


 食い入る視線が邪魔くさく、やる気を徐々に低下させていく。人のやる気を失わせ、その反応を楽しむ。宮戸(みやと)の得意分野。共に暮らし始めた頃は見せもしなかった『本性』が日常(あらわ)になっていく現実に戸惑いながら、対応出来ている自分がムカつく。

 

 ≪あれ?この経路図、見覚えがある≫

 「ふうん」

 

 (見覚えがある?)


 泳がせていた言葉を繰り返し、頭の中で何度も連発していく。その度に宮戸(みやと)の言葉の意味が分かり出した僕は、固まり、聞き返す。


 「どういう事だ?」

 

 そうすると、今まで見た事もない賢明さを引き出し、真面目な顔でにらめっこしたと思ったら、急に飛び上がり、書斎(しょさい)へと向かった。


 何かを探している様子の宮戸(みやと)の背中が、やけに(たくま)しく思えた。いつもの宮戸(みやと)とは(はる)かに違う人物に覚醒し、奥から何かを取り出し、僕に伝えようとしている。


 ――それが何かは分からないけど……。


 宮戸を待っている間、机の上に飾られた『造花』を見ながら、あの老人の最後の言葉の意味を(つかさど)


 ≪美しさを手に入れる為だよ。ユラユラ揺れながら別物へと姿を変えていく美しさ。君には分からんだろうなぁ……。≫


 本物よりも、造花よりも美しく囁く映像。人間の手によってつくられ、自然界のしきたり(・・・・)を切り裂く凶器と記されるほど、危なく、美しい、形を表さない分身。


 (KTに連れられて、見てしまった『あの女性(あいつ)』も偽物?)


 そんな事を考えてもきりがない、いつも考えるだけで終わってしまう事実があるから余計、痛い所だ。お前は考えすぎなんだよ、と何度言われただろう。だが、何年経ってもこの方針だけは変える事が出来ない。


 ≪……遅くなった≫


 たどたどしく言葉を詰まらせる『技術』を上手く活かしながら、空気を重たいものへと変えていく。黒い紐で(くく)られている複数の塊を僕に渡し、無言で僕の目を見つめ続ける。


 ――意味がある。


 今、(おこな)っている行為から外される事など許されない僕は、どうしたらいいのか分からず硬直する。目線を下に向けたいが、強く、真っすぐな目線を突きつけられて、逸らす事の出来る人間などいるのだろうか。


 ≪……それ見て≫


 宮戸(みやと)の了承を聞き、すぐさま視線を落下させ、内容に目を通す。内容に目を通した瞬間、言葉を失い、ただ、どういう事なのか『(ずのう)を結び合わせていく。


 純白の紙に書かれている内容と、僕と中江(なかえ)の共同作業で手に入れた情報と全くもって同一のものだったから……。


 ≪僕が……いや、俺が口を利けなくなる前に、ある女性から預かったもの。ある人に、この設計図と言葉を伝えて欲しいって頼んできたんだ≫


 宮戸(みやと)の口調、表情が極端(きょくたん)にかわり、男の顔になる。いつも『僕』と自分の事を呼んでいるのに、何かを諦めたように閉じかかっていた宮戸(みやと)の心、過去の姿が僕の前で再び、蘇る。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ