二つの入り口
低く、冷たい風が僕達の身を包み込んでいく。一人、一人硬直し、静かに震えている。強く、頼もしい肉食動物から身を隠す、草食動物のように……。
『野洲……。お前二日間も何やってた?』
堂上の憎しみに満ちた視線が僕の内心を探る。僕と堂上を取り巻く周りの奴らは、ゴクリと唾を飲み込み、影で見つめる。
「すみません、遊んでました」
『遊び』の言葉を聞いた瞬間、何かが凍り付いた。
バシッ
ゴリッ
手を丸め、拳を作り出し、僕の頬を殴った。何かに憑りつかれたように何度も、何度も……。
堂上の瞳に微かな輝きが浮かび、叫びを伴う。
『俺達が身を削っている時に、お前は何してんだ!』
歯止めが利かない様子の堂上は癇癪を起こし、唇を噛み切っていた。涙よりも深く、悲しい物体が口元を汚す。僕は一瞬の隙をつき、拳の道を伏せねじた。
痛みを分け合いながら僕は、彼を救ってあげた。延々と続く怒りの世界から……。
◇◇◇◇◇
横たわりながら、考える。
『あんな堂上初めて見た。いつもは冷静で、余裕を持っているあいつが、あんな感情を剥きだしたなんて信じられない』
机に肘をつき、おでこを支えながら呟く。そんなKTの発言を無視し、ただ口元を動かす。
「堂上は?」
『眠ってる。一応、睡眠薬も飲ませた』
「そう」
KTが差し出してくれた飲み物に手をつけずに、何分も、何時間も見つめ続ける。
「あいつだって人間。荒れたい時だってある。完璧なんかじゃないんだ」
軽々と思いつく言葉。
脳で考えずとも出てくる神聖なもの。そんな自分に驚き、酔いしれる。
「で、何があった?」
『え?』
「僕がいなかった、この二日間だよ。何かあったんだろう?」
『…………』
◇◇◇◇◇
青いサナギが姿を変え、僕等の元から離れようと高く飛び立つ。黒い羽を手に入れた奴は、温かい微笑みの中で寂しそうに輝いている。
暗闇の中で音を鳴らし、人の優しさに付け込み、利用する輩の存在が大きく降りかかり、刃を向けるしか手段を選ぶ事が出来ない。
「これ……」
棒円状に広がっている人らしき物体が、死んだように眠り続けている。プクプクと泡を吐いている『それ』は心のどこかで通信機を持ち合わせているように僕達の存在を知っているように身体を変えていく。
神秘的、創造的な物体は淡い色を作り出し、口から吐き出す。すると、幻想的な夢の世界を作り出し、僕達を招き入れる。
頭を抑え、現実と幻想の中を出入りする。僕は現実を生きている。幻想は僕の中にあるもの。現実があるから幻想がある。元になるものが消えてしまえば、残酷に成り下がってしまうだけ。