無言電話とメール
晴れた日の翌朝。黒ぶち画面から溢れている情報が、僕の背筋を凍らせる。キャスターの左上に赤々と強烈な印象を与える文字で≪院長射殺≫と書かれている。
『これで何件目ですか?』
『どうして院長を?』
『……何を考えているのか分かりませんね』
――狂ってる。
議会にいると、動揺な空気の中、議論していく『偉い人達』の言葉が突き刺さる。当たり前の言葉なのに、痛みを及ぼす凶器と化していく。
院長の体を貫通した弾丸と辺りに散らばっていた弾丸の生きぞこないの『種類』を鑑定してみると、二種類の弾丸は全くの別物であると判明した。手口を見ると複数のグループ、あるいわ『組織』が手を下した可能性が高い。
ピッと音を立て、チャンネルをまわす。どこの番組に切り替えても、その事件が報道されている。
被害者の顔写真が大きく報じられ、息を詰まらせる。白髪の混じった髪の毛。尖った輪郭。キツイ視線の中にある優しさと怪しさの混じった瞳。
(あの時の『老人』だ)
目を見開き、ただ茫然と立ち尽くす。死ぬ間際に、共に会話を交わしていた人物が僕だとは誰も思わないだろう。
あの時の老人……いや、院長は白衣など着ておらず、患者のような服装で僕の前に現れた。
(まさか……あれは僕を試す為にうった芝居?)
院長ではなく、ただの老人として僕と接して、仲間に相応しいか試していたって訳か……。
ガックリと肩をおとし、生力が体から抜けていく。
(……色々、聞き出しておけばよかった)
そんな後悔に駆られながら、テレビのスイッチを切り、朝食をパパッと済ませた。宮戸の眠りを妨げないように、気をつけながらラップに包む。
≪朝食です、温めてください。それとやたらに外に出ないように。 野洲≫
青いボールペンで書き記したそれを、テープで机に貼り付け、自宅を後にした。
◇◇◇◇◇
二日連続で、電源を切っていた携帯の電源を入れると、複数の伝言メッセージとメールが届いていた。
一件目。
二件目。
三件目。
…………。
全て無言電話。
留守を聞いた瞬間すぐさま切れる通話。
伝言メッセージを確認した後、すぐさまメール機能へと転換する。
三十件……。
まだ十件ぐらいだったら読めるのだが、ここまで多いと読む気も失くす。
はじめの一件、二件だけ見て、全てを削除。
≪何故、電話に出ない?≫
≪緊急事態なんだよ≫
王様はおかんむりの御様子。二日経った後にメールを送ったとしても、今から奴らの所に行くのだから、行って直接話した方が手っ取り早い。こんな少しの対話で金を減らしたくないし……。