序章
駅のアナウンスが寂しく響く中、ボーッと突っ立っていた。意識が遠くへ行き、周りの、僕を取り巻く当たり前の当たり前のものが、この世には存在しない『特別』のようなもののような気がした。
白く濁った煙を放出した。制服に纏わりつく酷い臭いと、憎悪を僕に叩き付け、無になり僕の前から消える。
別に煙草が好きな訳じゃない。自分の生きてる証を、自分の存在を、煙草を吸う事によって確かめていると言った感じだ。
鼻から息を吸い込み、口の中で煙を蓄える。煙から放出されたおぞましい気体が僕の奥に入り込む。それを蓄えた瞬間、残りものを放出する。
怪しく光る煙草の先端を見て、地面に叩き付ける。何かを憐れむような目で僕を凝視し、ニヤリと微笑んだ。僕は、そんな奴を見下し、黒く汚れた靴で踏みまくる。
『岬 慶介……』
携帯を片手に、僕の姿を見つめている。白いツルツルした面をなぞりながら、呟いた。
『しおり?』
湯谷は、疑問を問いかけてみた。
『何でもないよ』
笑顔で答え、湯谷を急かした。
『早く行こう』
湯谷の背中を押し、僕の方を見ないように、反対方向に歩きだした。
誰かの視線を感じた僕は、振り返り確かめてみる。振り返ってみると、ただ続く沈黙の空間がそこにはあった。
「気のせいか…」
そう呟き、新しい煙草を取り出し、口に咥えた。
何が人間の本当の姿なのか分からない。
人と比べるのが人間の姿?
闇に身を任せるのが人間の姿?
それとも…………。