感知できない音
ピーピー。
静かな音が建物を支配していく。どこから聞こえるのか分からないが、時間が経つにつれ、大きくなっていく。
≪何があったの?≫
【分からない……音がする】
≪どんな音?≫
無線機でも感知できないのだろうか。
【微かなんだけど、ピーって音がする。そっちには聞こえないのか?】
職員に呼び出された老人は瞬く間に闇の彼方へと姿をくらまし、僕一人を置き去りにしていった。その瞬間、電気がふっと切れ、全ての電化製品が音をたてて、停止し始めた。
《やばい……慶介!どっかに隠れて》
【え?】
《いいから早く!》
女の口調は尋常じゃなかった。
何かを察知したのだろう。
僕は手探りで隙間を探した。
カクンと手が壁の隙間へと入り込み、体制を崩した。奥深く進んでいくと、反対側に机があり、それを立てにして、隠れる事に成功した。
【いい?絶対身動きするんじゃないわよ?】
鼓動を刻む心臓に釘を打ち、静寂を保つ。
バタバタと足音が複数聞こえる。
嫌な空気を吸いながら、孤独の時へと支配され、ただ蹲る事しか出来ない。
『ちっ。あいつと連絡が出来ません。どうします?』
『ほっとけ。時期、現れる』
そんな会話が長々と続いたと思うと、急に静かになった。
【いい?慶介。奴らが行ったのを確認したら一刻も早く出るのよ】
女からの指示が下される中、足音が遠のいていく。
右に曲がったのを隙間から確認して、来た方向に足を向ける。足音を立てず、速足で女の元へと急ぐ。
『誰だ?』
後ろから来た12歳位の少年が、僕の腕を掴む。掴まれた腕がみるみる裂けていく。
――何て力だ。
『お前、何でここにいるんだ?』
僕の顔を覗き込み、睨みつける。表情の動きを見て、僕だとは気付かれていないみたいだ。
《何しているの?早く!》
息をのむ、鼓動を感じる、躊躇いを取り除く。
(今だ!)
右足で少年の腹部を蹴り、怯む前にすかさずキツイ蹴りをお見舞いする。
『ああああ!目が、目が!』
スピードを出し切っていた足が、力余って少年の目に直撃したのだ。
(ここで気付かれたらダメだ……)
意識を失うのを待ち、力いっぱい握り締めている手を振り払う。ゴロンと倒れ込む者は顔面から血を垂れ流し、この世の物体とはかけ離れていた。




