行事
ガシャンと何かが破裂する音が聞こえ、全身を凍らす。
――効果音。
聞き覚えのあるメロディが全身を包み、囁きかける。
――戻りなさい。
周りに気付かれないように、手に力を込め、精一杯振り払おうとする。
『どうしたんだね?そんな所で立ってないで、中に入りなさいよ』
ニコニコと不気味な笑顔で僕の肩に手を置く。
――やめろ、触るな、穢れる。
肩から腕へと悪疫が循環していく……。
◇◇◇◇◇
『ほぉ、ここに来るのは初めてかい?』
「はい」
『ここは良い所だよ。何でもあるし、周りにいつも人が群がっている。本当の自由がここにはあるんだ』
「……自由?」
『そうじゃよ、自由だ。わしらは自由なんじゃよ』
こんな牢獄のような所で生き続けていく事が、どれだけ苦しく、寂しい人生か理解しようとしない、硬い頭。
――これがこの老人の望む事と言うのだろうか。
悲しすぎる真実を突きつけられて、言葉を無くす。
『驚いただろう?こんな素敵な場所があるなんて思わなかっただろう?』
「…………」
老人は口を開いた。
『三年前に病院を作ったんじゃ。色んな人の力を借りて作り上げた住処を……。どうしても進めたい行事があってな。大きな施設が必要じゃった。そしてやっとの思いで此処を開く事が出来たんじゃ』
脳裏を司り、僕の前に姿を現した分身。
行事……所詮人体実験だ。
「行事?」
『君もここにいればいつか分かるさ』
興奮を抑えきれないのか、荒々しく息継ぎをする。
『しかし、こんな若者が入会してくれるとは……いい行事が行えそうだよ』
笑顔の奥にある影が僕を踏みつける。グシャグシャ、グシャグシャと……。
深く、悍ましい蛇口が唸り、泥水を泳がすように野放しにする。この人間の言葉に気にも暮れず、笑顔でかわし続けた。
【聞いたか?あんたが思っている通り、ここが奴らの隠れ家なのは間違いない】
≪そう、やっぱりね。とりあえず入り、その『行事』とやらの内容を徹底的に調べ≫
何かがあったらいけないから、と耳に差し込んでいる『小型無線機』
あの女の指図は受けないと思っていたのに、念を押されて受け取るはめになった。




