悪魔になりきれない僕
理解していないと分かった時点で、勝ち誇ったような表情を作り、僕に見せつける。その表情と態度が細胞に刺激を与え、夢の中にいた時と同じ感情を作り出す。だんだんとテンションが下がっていき、力が抜けていく僕を見て、まずそうな顔で見つめてきた。
パンと破裂音が網膜に注がれていき、僕の意識を現実へと戻していく。
『大丈夫か?』
「うん……」
『悪い。調子に乗っちまって……。本当にすまん』
胸の前で両手を合わし、謝る姿が心をくすぐった。
「何でKTなんだ?」
『え?』
「名前の由来だよ」
KTの様子を確かめる。
「何か理由があるんだろう?」
『秘密』
頬を膨らますと、ピリピリと痛みを与える『とうがらし』のように真っ赤になっていく。
『メッセージ』
ボソボソと呟いた彼の瞳を覗き込む。グラスに入っている氷の音がKTの言葉を掻き消し、雑音を放つ。
『お前にだって、知られたくない事の一つや二つあるだろう?それと同じさ』
細い窓から注がれる青い光。縋りつくように、ただただ見つめていた。
◇◇◇◇◇
きっと待っていると思うぞ。
お前からの連絡を……。
迷うならかけちまえ。
帰り際に放りつけられた言葉が耳にコピーされ、離れようとしない。それどころか、何度も繰り返すばかりだ。
(かけちまえ!)
汗にまみれた掌が潤いを取り戻そうと、体温を保つ。カタカタと爪の腹が美しいボディに触れ、異色の音を創造する。
この手の震えさえ止まれば、きっとかけてしまう。
いいのだろうか……。
かけてしまって……。
折れるぐらい左右に揺らす。
ダメだ。
やめておこう……。
揺れる決意の中で蠢く決意。
決めたんだ。
全てが終わるまで関わらないと……。
僕はいまだに『悪魔』になりきれていないのだろうか……。




